固定資産税実務Q&A

Q&A 一覧

<総論>

Q 固定資産税の過大徴収はどの程度起きているか?

Q 固定資産税はどのように算出されるか?

Q  固定資産の登録価格が違法になるのはどのような場合か?

Q 固定資産の登録価格を法的に争うにはどうすればよいか?

Q 固定資産の評価に疑義がある場合、審査申出の機会を待つほかないか?

Q 固定資産の評価額が修正された場合、何年分遡って還付されるか?

Q 固定資産の評価額が修正された場合、不動産取得税は還付されるか?

Q 固定資産評価審査委員会の決定が誤っていた場合、自治体は賠償責任を負うか?

Q 固定資産税の過大徴収はどの程度起きているか?

A 総務省の2012年8月28日付「固定資産税及び都市計画税に係る税額修正の状況調査結果」では、調査回答に応じた自治体(1,592市町村)のうち97%の自治体において、課税誤りがあったと報告されています(https://www.soumu.go.jp/main_content/000173655.pdf)。固定資産税を過少に徴収した件数よりも過大に徴収した件数のほうが多かったとのことです。

 また、2014年以降も、東京23区と20政令市(横浜市と広島市を除く)の固定資産税の還付実績(課税ミスにより事後に納税者に返還をした件数)は、毎年、70億円程度で推移しています(2019年12月2日付け日本経済新聞)。

 固定資産税の計算方法は、難解かつ複雑です。しかも、固定資産税の対象となる土地、建物は膨大にあり、3年に1度は計算をしなおさなければなりません。しかし、このような職務にあたる自治体の職員の数は限られており、その全てを正しく計算するのは困難を極めます。自治体の職員の方は熱意をもってその職務にあたられていますが、そもそもの制度に問題があるため、固定資産税の過大徴収は一向に減る気配がありません。

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Q 固定資産税はどのように算出されるか?

A 土地、建物の固定資産税は、以下の過程を経て算出されます。

1 市町村の固定資産評価員等が固定資産の実地調査を行います(地方税法408条)。

2 固定資産評価員等が固定資産の「評価」を行い、これを「評価調書」にまとめます(地方税法409条1項)。評価調書は、市町村長に提出されます(地方税法409条4項)。 

3 市町村長は、毎年3月31日までに、固定資産の価格等を決定します(地方税法410条1項)。価格の決定は、「固定資産評価基準」及び「評価調書」に基づいて行われる必要があります(地方税法403条1項、410条1項)。

4 市町村長は、決定した固定資産の価格等を「固定資産課税台帳」に登録の上、これを公示します(地方税法411条1項、同2項)。

5 固定資産税の「課税標準」は、土地については土地課税台帳等に登録された価格、家屋については家屋課税台帳等に登録された価格です(地方税法349条第1項)。

6 土地、家屋によっては「課税標準の特例」の適用があるため、必要に応じて特例により課税標準を修正します。たとえば、住宅用地については、その課税標準を土地の価格の3分の1または6分の1とする課税標準の特例があります(地方税法349条の3の2)。

7 課税標準に税率を乗じて固定資産税の金額を算出します。固定資産税の標準税率は、1.4%です(地方税法350条)。

8 必要に応じて土地の負担調整措置による税額の減額(地方税法附則18条)や新築住宅等の税額の減額(地方税法附則15条の6ないし11)等を適用し、固定資産税の金額を修正します。

9 以上の過程を経て税額が確定した後、市町村は、納税者に対し納税通知書、課税明細書を交付し、固定資産税の徴収を行います(地方税法364条)。納税通知書、課税明細書の交付は、通常、毎年4月から6月にかけて行われます。

 以上のとおり、固定資産税の金額の計算は、その固定資産の価格(評価額)を出発点としています。もっとも、自治体による価格の見直しは3年に1度行われるにとどまります(地方税法349条1項~3項)。そのため、上記のうち1と2は、3年に1度しか行われません。実務上は、この価格の見直しを「評価替え」といい、評価替えの行われる年を「基準年度」といいます(地方税法349条1項)。固定資産の価格は、3年間は据え置きとなるため、基本的には固定資産税の金額も3年間は変わらない、ということになります。

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Q  固定資産の登録価格が違法になるのはどのような場合か?

A 自治体は、毎年3月31日までに、固定資産の価格(評価額)を決定し、これを固定資産課税台帳に登録します(地方税法410条1項、411条1項、2項)。そして、この課税台帳の登録価格に基づいて固定資産税の金額が計算されます。

 自治体による固定資産の登録価格が違法になるのは、①固定資産評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るとき、または、②固定資産評価基準の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく、またはその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別な事情が存する場合であって、同期日における客観的な交換価値としての適正な時価を上回るとき、です(最判平成25年7月12日判タ1394号124頁)。

 ①より、自治体が固定資産評価基準の適用を誤り、登録価格が本来、適正に同基準を適用した場合の価格を超えた場合、登録価格は直ちに違法になります(登録価格が適正な時価を超えているかどうかは問われない)。

 他方で、②より、自治体の固定資産評価基準の適用に誤りがない場合には、単に不動産鑑定士による不動産の鑑定評価額が登録価格を超えているというだけでは登録価格は違法にはなりません。納税者としては、登録価格が適正な時価を超えていることに加え、固定資産評価基準では適正な時価を算定することができない特別な事情を主張立証する必要があります。

 登録価格の適法性に関しては上記の判断枠組みが採られているため、自治体による固定資産の登録価格に関する裁判においては、まずは自治体の固定資産評価基準の適用に誤りがあるといえるかどうかが主要な争点となります。

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Q 固定資産の登録価格を法的に争うにはどうすればよいか?

A 自治体は、毎年331日までに、固定資産の価格(評価額)を決定し、これを固定資産課税台帳に登録します(地方税法4101項、4111項、2項)。そして、この課税台帳の登録価格に基づいて固定資産税の金額が計算されます。したがって、自治体による固定資産の評価に不服がある場合、法的には、自治体による固定資産の登録価格を争うことになります。

 自治体による固定資産の登録価格を法的に争うには、まずは各自治体の固定資産評価審査委員会に対し、「審査申出」を行う必要があります。最初から訴訟を提起することはできず、審査申出を経た上で訴訟を提起する必要があります。

 審査申出ができるのは、実務上は、3年に1度の評価替えの年(基準年度)に限られます。評価替えの年は、その固定資産の評価に影響を及ぼす全ての事項が審査申出の対象となりますが、それ以外の年は、土地については分合筆や地目の変換、地価の下落等、建物については増改築等に関する事項しか審査申出の対象にできないためです(地方税法4321項但書)。

 また、審査申出は、納税通知書の受領後、3か月以内に行わなければなりません(地方税法4321項本文)。

 以上のとおり、自治体による固定資産の登録価格を争うには、3年に1度の評価替えの年(令和3年、6年のように令和の3の倍数の年)に、納税通知書が届いてから3か月以内に審査申出をする必要があります。納税通知書が届いてから3か月以内に登録価格に誤りがないか調査の上、審査申出を行うというのは容易なことではないため、前もって準備をする必要があります。

 固定資産評価審査委員会の審査の決定に不服がある場合には、決定があったことを知った日から6カ月以内に訴訟を提起することができます。なお、同委員会が審査の申出を受け付けてから30日以内に決定を出さない場合も、審査申出を却下する旨の決定があったものとみなされ、訴訟を提起することができます。

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Q 固定資産の評価に疑義がある場合、審査申出の機会を待つほかないか?

A 自治体による固定資産の評価額(登録価格)を争うには、法的には審査申出をする必要がありますが、これは通常、3年に1度しか行うことができません(Q 固定資産の登録価格を法的に争うにはどうすればよいか?)。

 しかし、実務上は、納税者は、いつでも自治体に対し、固定資産の評価に関して疑義がある旨を申し入れることができます。自治体が納税者の指摘する評価の疑義を認めた場合、固定資産の評価額(登録価格)は修正され(地方税法417条1項)、過去に過大に徴収された固定資産税も還付されます。

 他方で、自治体が納税者の指摘する評価の疑義を認めない場合、自治体に固定資産の評価額(登録価格)の修正をさせるには、次の審査申出の機会を待つほかありません。

 なお、筆者の経験上、納税者が「固定資産評価基準」を踏まえて相応の証拠をもって申入れをした場合、多くの自治体は真摯にこれを検討し、評価の修正を認める傾向があるように感じています。

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Q 固定資産の評価額が修正された場合、何年分遡って還付されるか?

 固定資産の評価に誤りがあったことが判明した場合、自治体はその評価額を修正しなければなりません(地方税法417条1項)。ただし、自治体がその評価額の修正を行えるのは、直近5年間の評価額の決定に限られます(同17条の5)。

 評価額の修正が行われると、修正前の評価額に基づく固定資産税と修正後の評価額に基づく固定資産税の差額は、本来、自治体が徴収すべきではなかった金額ということになるため、自治体から納税者に対し、返還がなされます。

 自治体が過去の評価額の修正を行えるのは、直近5年間に限られるため、結果として、地方税法に基づく返還は、直近5年分となります。納税者の返還請求権が5年で時効消滅するためではありませんので、この点、注意を要します。

 このように、地方税法では、直近5年よりも前の期間に過大に徴収された固定資産税相当額の返還を求めることはできません。納税者としては、2つの方法があります。

 1つ目は、各自治体が定める内規(返還要綱)に基づいて返還を求めるという方法です。多くの自治体では、最大20年前に遡って過大に徴収した固定資産税相当額を返還する旨の内規(返還要綱)を設けています。そこで、納税者としては、まずは、この内規(返還要綱)に基づいて5年よりも前の期間に過大徴収された固定資産税相当額の返還を求めることになります。なお、内規(返還要綱)の定める返還要件は、各自治体によって若干、異なります。

 2つ目は、国家賠償法に基づき、自治体に対し、過大に徴収された固定資産税相当額を「損害」としてその賠償を求めるという方法です。国家賠償法に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、20年であるため(国家賠償法4条、民法724条2号)、納税者は、最大20年前に遡って過大に徴収された固定資産税相当額の賠償を求めることができます。もっとも、その請求が認められるためには、単に自治体の評価が誤っていただけでは足りず、その点につき、自治体に少なくとも「過失」があるということを納税者が立証しなければなりません。

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Q 固定資産の評価額が修正された場合、不動産取得税は還付されるか?

 不動産取得税の法定納期限から5年以内の場合には、都府県に申入れをすることで不動産取得税も還付される可能性があります。

 固定資産税は市町村税であり、市町村(東京23区では東京都)に納付します。他方で、不動産取得税は都府県税であり、都府県に納付します。固定資産税と不動産取得税では、課税団体が異なるため、固定資産税の還付に合わせ、自動的に不動産取得税も還付されることにはなりません。

 不動産取得税の課税標準は、その不動産の価格(地方税法73条の13第1項)です。この価格は、固定資産税と同様、固定資産評価基準に基づいて決定されます(同73条の21第1項・2項)。したがって、その固定資産が固定資産評価基準に基づいて適正に評価されていない場合、市町村長の固定資産税の価格に係る決定のみならず、都道府県知事の不動産取得税の価格に係る決定も誤っているといえます。

 もっとも、都道府県知事が不動産取得税の価格に係る決定を修正することができるのは、その不動産取得税の法定納期限から5年を経過する前までです(同17条の5)。5年を経過すると、不動産取得税の価格に係る決定が誤っていたとしても、都道府県知事はこれを修正することができないため、過大に徴収した不動産取得税相当額の還付を行うこともできないということになります。

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Q 固定資産評価審査委員会の決定が誤っていた場合、自治体は賠償責任を負うか?

 自治体による固定資産の評価額(登録価格)を法的に争うには、まずはその自治体の固定資産評価審査委員会に審査申出を行います。

 同委員会は、納税者の主張の全部又は一部を認め、評価額の修正を行うべきと判断した場合には、審査申出を「認容」する旨の決定を行います。他方で、評価額の修正を行う必要はないと判断した場合には、審査申出を「棄却」する旨の決定を行います。

 納税者は、同委員会の決定に不服がある場合には、決定があったことを知った日から6カ月以内に同委員会の決定の取消しを求めて訴訟を提起することができます。訴訟の結果、納税者の主張が認められた場合、同委員会の決定は、裁判所の判決によって取消しがなされます。この場合、結果的には、同委員会の決定は誤っていたといえます。納税者としては、同委員会が適切な決定を下していれば、弁護士費用を負担してまで訴訟をせずに済んだはずだと考えるかもしれません。

 実際、丹波市の土地の所有者は、丹波市を被告として、丹波市固定資産評価審査委員会の決定の取消しを求めるとともに、同委員会の違法な決定によって取消訴訟を提起せざるを得なくなったとして、国家賠償法に基づき弁護士費用相当額を損害として請求しました。神戸地裁と大阪高裁は、同委員会の決定の取消しは認めつつも、同委員会の委員には職務上の注意義務違反は認められないとして、損害賠償請求は認めませんでした。しかし、最高裁は、同委員会の決定の取消しを認め、かつ、同委員会の判断には相当な根拠はなく、同委員会の委員には職務上の注意義務違反が認められないとした大阪高裁の判断は違法であるとして、これを原審の大阪高裁に差し戻しました(最判令和4年9月8日判タ1504号18頁)。すなわち、最高裁は、相当な根拠なくなされた同委員会の決定は国家賠償法上、「違法」であり、市はこれによって納税者に生じた損害を賠償する必要があると事実上、判断しました。

 固定資産評価審査委員会は、第三者機関として、公正中立な立場から固定資産の評価額の適正性を審査すべき立場にあります。委員は市町村長(東京都は東京都知事)によって選任されます(地方税法423条3項)。しかし、固定資産の評価額に係る決定をしたのもまた市町村長です(同410条1項本文)。納税者が同委員会について、「自治体に寄った判断をするのではないか」との目を向けることも無理もないことです。同委員会が漫然と自治体を擁護するような決定を下せば、その決定は国家賠償法上、違法と判断され、自治体が納税者に賠償義務を負うことになるという点は、同委員会としても注意すべきでしょう。

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投稿者等

山田 重則

業務分野

固定資産税還付

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