資金余力があるうちに廃業するという選択肢
コロナ過の2021年度~2022年度は、実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」などの支援策により企業の資金繰りが改善しました。そのため、コロナ過の企業の倒産件数は、歴史的にも低水準で推移していました。しかし、東京商工リサーチの調査によれば、2022年度の企業の倒産件数は、2021年度と比べ15%増の6880件と、3年ぶりに前年度を上回りました(※1)。コロナ関連融資の返済や物価高、人件費の高騰などを背景に、今後も企業の倒産件数は増加する可能性が高いといわれています。
企業の財務状況が悪化し、債務超過となった場合、企業は、通常、裁判所が関与する破産手続を取らざるを得ません。この場合、企業の資産の多くは、金融機関からの借入金の返済に充てられます。そのため、取引先は売掛金をほとんど回収できず、連鎖倒産となる可能性もあります。また、従業員は突然、仕事を失うことなり、経営者自身も通常、個人保証の免責を受けるため、破産しなければならない状況に追い込まれます。このように、企業が破産をすると、それが関係者に与える影響は深刻なものとなります。
他方で、債務超過に至る前、資金余力があるうちに廃業することを経営者が決断した場合、取引先や従業員に対しては、あらかじめ廃業の予定を伝えることができます。取引先との間では、どのように取引を段階的に縮小させていくのか話をすることができ、廃業による取引先への影響を小さくすることができます。また、従業員にとっても早期に転職活動や家族への説明をすることができ、再出発がしやすくなります。金融機関からの借入金を一括返済することができれば、経営者が個人として破産する必要もなくなります。債務超過に陥ってから破産するのか、それとも、債務超過に陥る前に自主的に廃業するのかは、その後の関係者に与える影響が全く異なります。
企業が自主的に廃業するためには、会社法の定める「通常清算」の手続をとることになります。通常清算の手続は、株主総会の解散決議、事業の終了、資産の換価換金、債権者への支払、残余財産の株主への分配を経て、最終的には清算結了の登記をすることで完了します。経営者やその家族は、その企業の株主であることも多いため、株主として残余財産の分配を受けられることも、新しい生活を始める上ではプラスに働きます。
経営者にとっては、廃業をすることは大きな決断であり、慎重に判断せざるを得ません。しかし、債務超過に至る前であれば、その影響を小さくすることができる様々な手立てが残されています。また、経営者自身の再出発も容易になります。「廃業」というとマイナスなイメージがつきまといますが、悪いことばかりとは一概にはいえません。早めに廃業をするという選択肢についても検討する価値はあるといえるでしょう。
以上
引用:
※1 2023年4月10日 日本経済新聞「22年度の倒産15%増 3年ぶり、ゼロゼロ返済で息切れ」
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