鳥飼総合法律事務所

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平成13年商法改正 金庫株解説QA

 
投稿者
鳥飼総合法律事務所
取扱分野
コンプライアンス
 

Q 今回の改正点を説明して下さい。
A 今回の改正では、[1]自己株式取得保有自由化(金庫株解禁)、[2]会社設立時の株式の発行価額規制・株式分割後の1株あたり純資産額規制の廃止、[3]額面株式制度の廃止、[4]利益準備金積立額の減少、[5]単位株制度の廃止と単元株制度新設などが改正されました。施行日は、平成13年10月1日と予想されています。今回の商法改正に伴い、証券取引法なども改正されました。

 

Q 自己株式の取得保有が自由になったと聞きますが、概要を簡単に説明して下さい。
A 金庫株とは、会社が自己株式を買い戻し、消却しないまま保有し続ける場合の自己株式をいいます。改正前は、自己株式の取得及び保有の原則禁止という立場から、[1]取得目的の規制、[2]取得手続の規制、[3]取得方法の規制、[4]取得財源の規制、[5]取得数量の規制、[6]取得株式の保有期間の規制を設けていました。しかし、改正法は、[1]取得目的の規制、[5]取得数量の規制、[6]取得株式の保有期間の規制を撤廃し、自己株式の取得については、[2]取得手続の規制、[3]取得方法の規制、[4]取得財源の規制のみにしました。つまり、左記[2][3][4]の規制の元であれば自由に自己株式を取得できることになりました。他方で、これまで、取得した自己株式については保有期間を規制しつつ、自己株式の処分方法については特に規制していませんでした。しかし、保有期間の規制は必要がなく、随時、自己株式の処分(利用)を認めた方が、例えば株式を消却してその後にまた新株を発行するよりも事務的な負担が少なくメリットがあります。そこで、改正法は自己株式の取得と保有を自由化し、自己株式をいわば金庫に入れておき随時の出し入れを認めることしました。それに伴い、会計上の取扱として、アメリカと同様に保有する自己株式の資産性を否定することになりました(商法290条1項5号の削除、貸借対照表にも資産として計上されません)。また、自己株式の処分については、新株発行と同様の手続により処分することとなりました。なお、今回の改正に伴い、株式消却特例法は廃止されることになりました。

 
Q 金庫株のメリットを教えて下さい。
A 金庫株解禁により目的を問わずに自己株式を取得し保有できることから、[1]企業は株価が下がった自社株を市場から買い戻して株価が持ち直すまで保有し、株価低迷の原因になっている持合株解消売りの受け皿としての利用(株式持合い解消に伴う株式市場の不安定化対策)、[2]敵対的買収への対抗策、[3]企業再編に際しての自己株式の代用株としての利用、などが考えられます。なお、 [4]一部には相続税対策への活用なども指摘されております。

 
 Q 金庫株は、株式の消却及び新株発行と機能的に類似するようにも思われますが、消却と比べてメリットはあるのでしょうか。
A 確かに、自己株式取得保有自由化と株式消却・新株発行は機能的に類似します。しかし、自己株式の方が事務手続きが簡便で、実務的なメリットがあります。すなわち、株式消却には株券の失効手続が必要です。また、新株の発行には新たに株券を作成し発行するという発券事務が必要です。他方で、自己株式ではそのような事務手続きが不要です。このように株式の消却及び新株発行には種々の手続面でのコストがかかることを考えると、金庫株は実務的な面で消却プラス新株発行よりメリットが大きいことは明らかです。

 
Q金庫株解禁には弊害はないのでしょうか。
A 弊害はないものと思われます。従来、自己株式の取得には、[1]会社資本の充実・維持を害するおそれ、[2]株主平等原則を害するおそれ、[3]会社支配の公正を害するおそれ、[4]不公正な取引のおそれがあると言われてきました。しかし、これらの理由は、改正前のような強い事前規制を正当化するものではありません。[1]会社資本の充実・維持の問題は財源規制で、[2]株主平等原則の問題は取得手続と取得方法の規制で、[3]会社支配の公正の問題は手続と方法の規制で、[4]不公正取引の問題は商法上は手続と方法の規制で、また証券取引法のインサイダー規制及び株価操縦規定で対応できます。また、そもそも自己株式については、会社が発行済株式総数が多過ぎ株価が企業価値を正当に反映していないと経営判断した場合に、当該会社が自己株式を取得して株価に企業価値を反映させることは十分に経済合理性のあることです。抽象的な弊害のおそれだけで一律に事前禁止することは、今日のグローバル化した企業環境の元では行き過ぎです。株式市場の活性化という観点からも、財源、手続、方法の規制という必要な規制を施した上で自己株式の取得・保有を認めることは正当なものといえます。

 
Q 金庫株を解禁すると経営者支配の固定化、経営者独裁の危険などが生じるのではありませんか。
A 質問の危険は生じないものと思われます。商法は事前規制として手続面と方法面でチェックします。つまり、取締役(経営者)は、定時総会の決議で授権された範囲でしか自己株式を取得できないし、特定の者からの取得(市場外での相対取引)の場合には特別決議まで必要です(210条5項)から質問の危険は生じません。また、事後的にも、取締役が地位保全のために濫用的に金庫株を利用した場合には、取締役の善管注意義務(商法254条3項)違反となります。また、金庫株は株主総会で授権されることから、不適切な取得が行われた場合には翌年の株主総会で株主からの厳しい追及・チェックがなされます。さらに金庫株を濫用的に使用しようとしても金庫株の処分には新株発行規定が準用されるので、差止の対象になることは明らかです(211条3項)。以上により、事前的には手続規制と方法の規制、そして事後的には、取締役の善管注意義務違反・株主総会でのチェック・新株発行手続の準用という種々の手当がなされているといえます。

 
Q 自己株式を自由に認めると出資の払い戻しとなり、資本充実の原則に抵触しませんか。
A 抵触しません。自己株式の取得には財源規制があり、原則として配当可能利益だけからしか取得できないので問題ありません。むしろ、改正前は自己株式取得の財源規制が不十分であったことと対比すると、今回、すべての自己株式取得について財源規制を横断的に設けたことから、かえって資本充実を満たしているものと思われます。

 
Q自己株式の保有中に株価が下がった場合には、二重の損失となり、資本充実の原則を害しませんか
A 仮にそのような事態になっても資本充実を害することにはなりません。例えば、株価が1000円の場合に1000円の株を取得し、その後、株価が500円に下がると一見500円の損失のように見えるかもしれません。しかし、金庫株は資産性が否定されているので法的観点からは損失の発生とはいえないのです。またこれと同様の事態は株式消却の場合にも生じます。つまり、株価が1000円のときに株式を消却し、その後株価が500円に低下した時には、さらに1000円の資金調達をしようと思えば、一株500円として二株を発行しなくてはならず、またそれで足ります。そして、2株発行により1000円を調達できるのですから、損得の問題、資本充実の問題は発生しておりません。言い換えると、自己株式の取得、消却、新株の発行、自己株式の処分などはいわば資本取引であり、会計的にも損益の問題とはならず、資本充実に抵触することはないと考えられるのです。

 
Q 自己株式の取得手続に関する210条を説明して下さい。

[1] 自己の株式を買い受けるには、a決議後最初の決算期に関する定時総会の終結の時までに買い受けることができる株式の種類、総数及び取得価額の総額、b特定の者から買い受けるときはその者について定時総会の決議を要します(1項・2項)。
[2] [1]の取得価額の総額は、配当可能利益を超えることができません(3項)。
[3] [1]の定時総会で法定準備金の減少又は資本の減少の決議をした場合には、取得価額の総額の決議に当たっては、配当可能利益に前記減少額を加えた額を取得価額の総額とすることができます(第4項)。
[4] [1]bの特定の者からの取得の際には、特別決議とします(5項)。
[5] [1]の決議をする場合における議案の要領は、招集通知に記載します(6項)。
[6] [1]bの特定の者からの取得の際には、株主は、自己をも売主に加えることを請求することもできます(7項)。
[7] [1]の決議に基づいて株式を買い受けるには、特定の者からの取得の場合を除き、市場取引又は公開買付け(TOB)の方法によります(8項)。なお、従来は公開企業では必ず市場取引若しくはTOB(株式公開買い付け)によらなくてはなりませんでした(旧210条の2第10項)が、改正法は特定の者からの買い受けの場合は、非公開会社と同様に株主間の相対取引による取得を認めました。このように公開会社での相対取引が認められたことは注目すべき点と思われます。

 
Q 自己株式の取得の財源はどうなっていますか。
A 取得する自己株式の財源は、原則として配当可能利益です。しかし、法定準備金を取り崩す(資本の4分の1まで)ことにより法定準備金を財源とする方法も認められました。つまり、法定準備金の減少という新たな手続が認められました。この法定準備金の減少については、法定準備金の有効利用の途を開くとともにその限度枠を資本の四分の一までとしており、しかも資本減少と同様に手厚い会社債権者保護手続まで求めているので、妥当な改正といえます。

 
Q 自己株式の取得に関する経過措置について具体的に説明して下さい。

[1] 直前決算期(この法律の施行前に到来した最終の決算期をいう。以下、同じ。)に関する定時総会において旧商法第210条ノ2(ストック・オプション等のための自己の株式の取得)及び第212条ノ2(利益による株式の消却)の規定による決議がされたときは、その決議による授権の範囲内で次期決算期(この法律の施行後最初に到来する決算期をいう。以下同じ。)に関する定時総会の終結の時まで自己の株式を買い受けることができます(附則第3条第1項)。
[2] この法律の施行前に開姶された相続に係る自己の株式の買受けについては、次期決算期に関する定時総会の終結の時までは、旧商法第210条ノ3(譲渡制限株式の相続人からの取得)の規定による自己の株式の買受けが認められます(附則第3条第3項)。

 
Q 自己株式の保有及び経過措置について具体的に説明して下さい。
A 自己株式については、消却及び処分義務は課されません。つまり自由な保有が認められます(旧商法第211条(自己の株式の失効手続・処分)の規定の削除)。
経過措置については、
(1) 消却特例法3条[1]の利益消却は、次期定時株主総会終結時まで取締役会決議により自己株を買い受けることができます(附則3[4])。改正法施行(10月1日)前に買い受けた自己株は消却するので保有できません(附則2)。改正法施行後に買い受けた自己株は改正法に基づき保有できます。なお、処分は平成14年4月1日までできません(附則5)。
(2) 消却特例法3の2の資本準備金による消却は、次期定時株主総会終結時まで取締役会決議により自己株を買い受けることができます(附則24[1])。買い受けた自己株は消却します(附則24[1])。

 
Q 保有している金庫株の権利関係はどうなりますか。
A 保有している自己株式には議決権も利益配当もありません。保有している自己株式は資産性が否定されていますから、その自己株式に議決権も利益配当請求権も認めることができないのです。なお、金庫株に議決権が認められないことから、従来、発行済み株式総数を基準としていた制度はすべて議決権数を基準とするように変更されました。これにより、親子会社の定義も、「発行済み株式総数の過半数にあたる株式を有する会社」から「他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する会社」と変更されることになりました。

 
Q保有している自己株式は貸借対照表に資産計上されますか。
A 資産計上されません。金庫株は、いわば金庫に入れられた株式であり、アメリカでの取扱と同様に、資産性が否定され、貸借対照表に資産計上されないのです(商法290条1項5号の削除、貸借対照表にも資産として計上されません)。なお、今回の改正に伴い、株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び附属明細書に関する規則の改正も予定されています。同規則改正案34条4項は、「自己株式は、資産の部に別に自己株式の部を設けて控除する形式で記載しなければならない」とあります。この趣旨は、これまで自己株式については、原則として流動資産として計上し、例外的にストックオプション目的のものは投資等の部に計上していたのですが、今回の商法改正に併せて、期末に保有する自己株式を貸借対照表の資本の部における控除項目として計上する内容に改正する予定と言われています。なお、自己株式の資産性否定により、自己株式を取得すると消却をしなくても資本勘定が直接減少することになり、ROE(株主資本利益率)が上昇することになるはずです。

 
Q 自己株式取得に関する取締役の責任を定めた商法210条の2を説明して下さい。
A 取締役は、営業年度の終わりにおいて資本の損失が生じるおそれがあるときは自己株式を買い受けることができません。結果として資本の欠損が生じた場合には、取締役は会社に対して連帯してその欠損額について賠償責任を負います。しかし、その場合でも、取締役が注意を怠らなかったことを証明したときは取締役は責任を問われません。すなわち、改正法は、一方で取締役の責任を過失責任とするとともに、他方で過失がないことを取締役に立証させ、現実的な調整を図っています。

 
Q自己株式の処分の手続及び経過措置を具体的に説明して下さい。

処分の手続については第211条が定めています。
(1) 自己株式の処分の場合は、[1]処分すべき株式の種類及び数、[2]処分すべき株式の価額及び払込期日、[3]特定の者であって特に有利な価額をもって株式を譲渡すべきもの並びに譲渡する株式の種類、数及び価額、について取締役会決議が必要です(第1項)。
(2) 定款による譲渡制限が存する場合には、前記の[1]処分すべき株式の種類及び数、[2]処分すべき株式の価額及び払込期日について特別決議が必要です(第2項)。
(3) 処分については新株発行規定を準用します(第3項)。
(4) 経過措置(附則第5条関係)として、自己株式を保有している会社は、平成14年3月31日までの間、代用自己株及びストック・オプションの権利行使の場合を除き、自己株式の処分はできません。

 
Q 子会社からの自己株式の買受けについて定めた211条の3を説明して下さい。

[1] 親会社は、取締役会の決議で、子会社が有する親会社株式を買い受けることができます(第1項)。
[2] [1]の場合は、買い受ける株式の種類、総数及び取得価額の総額について取締役会決議が必要です(第2項)。
[3] [2]の取得価額の総額は、中間配当の隈度額を超えることができません(第3項)。これにより、親子会社間では親会社は株主総会決議を要することなく取締役会決議のみで子会社保有の自己株式を取得でき、柔軟な組織再編に利用することができます。

 
Q 保有する自己株式の消却について定めた212条を説明して下さい。

[1] 会社は、取締役会決議で、保有する自己株式を消却することができます。
[2] [1]の決議をした場合は、会社は、遅滞なく株式失効の手続をとらなければなりません(第2項)。

 
Q 資本減少の手続又は定款の定めに従う消却を定めた213条を説明して下さい。

[1] これについては第213条が定めています。株式は、第212条(保有する自己株式の消却)のほか、資本減少手続又は定款に基づき配当可能利益を財源とする場合でなければ、消却することはできません(第1項)。
[2] 第215条第1項及び第2項(株式の併合の手続)の規定は、�により株式を消却する場合に準用します(第2項)。
[3] 資本減少手続による株式消却の場合、第215条第1項の期間の満了の時に債権者保護手続が終了していないときは、その終了の時に消却の効力が生じます(第3項関係)。

 
Q 法定準備金の減少手続などを説明して下さい。

[1] 利益準備金として積み立てるべき額は、資本準備金の額と併せてその資本の4分の1に達するまでです(第288条)。
[2] 資本減少によって減少した資本の頓が株式の消却又は払戻しに要した金額及び欠損の補填に充てた額を超える場合であっても、その超過額を資本準備金として積み立てる必要はありません(第288条ノ2)。
[3] 法定準備金の減少手続は第289条2項3項が定めています。
a  会社は、株主総会決議により、資本準備金及び利益準備金の合計額から資本の4分の1に相当する額を控除した額を限度として資本準備金又は利益準備金の減少をすることができます(第2項)
b  法定準備金減少手続については資本減少の規定を準用します(第3項)。

 
Q 金庫株解禁に伴う不公正取引防止のためのインサイダー取引規制はどうなっていますか。
A 証券取引法166条は、企業関係者などが業績や提携など業務に関する「重要事実」を公表した後でなければ、その会社の株を売買できないとしています。そして、今回証券取引法の改正により、自己株式の取得、処分に関する決定も「重要事実」に含まれ、この決定が公表された後でなければ自己株式の取引ができないことになりました。

 
Q 金庫株解禁に伴う不公正取引防止のための相場操縦規制はどうなっていますか。
A 自己株式の取引が自由になると、会社自身が自己株式を利用して株価を操作する、いわゆる相場操縦のおそれが発生します。しかし、自己株式取得が相場操縦に該当するおそれが存するとなれば誰も自己株式を取り扱いませんので一定の要件を充たせば相場操縦に抵触しないという取扱が必要になります。この点、アメリカでは、SECがセーフ・ハーバー・ルールを定めて相場操縦にならない場合の要件が明確にされています。そこで、今回、新たに証券取引法162条の2を設けて、「相場を操縦する行為を防止するため、取引の公正の確保のため必要かつ適当であると認める事項を内閣府令で定めることができる」としました。その内容は次のようなものであると言われております。[1] 一日に一社のみの証券会社を通じて自己株券の買い付けを行う(証券会社の数の規制)、[2] 証券取引所の取引終了時刻の直前三十分以外の時間に自己株券の買い付けを行う(取引時間の規制)、[3] この自己株券の直近の売買価格を上回らない価格において自己株券の買い付けを行う(取引価格の規制)、[4] 一日のうちにこの自己株券の一カ月間の一日平均売買高の百分の二十五、または適切な単位として別に定める数量のいずれか大きい方を超えない範囲で自己株券の買い付けを行う(取引量の規制)、[5] 自己株式の透明性確保のために自己株式の買付委託注文は自社名で行う(注文方法の規制)、という規制です。いわば、アメリカのセーフ・ハーバー・ルールを参考にしながら日本の市場環境とすり合わせた内容になっています。

 
Q 投資家へのディスクロージャーはどうなっていますか。
A マーケットの投資家の信頼をかち得るためには投資家へのディスクロージャーが不可欠です。改正法はこの観点から、証券取引法24条の6を改正し、これまで3ヶ月ごとだた自己株券買付状況報告書の提出を、自己株式の取得の定時総会の決議後から、そして次期定時総会まで1カ月ごとに提出をするというように規制を強化しました。

 
(文責 弁護士 吉田良夫)

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