【民事判例研究会】 最高裁R4.6.27第一小法廷決定をよむ ~会社不祥事の取締役責任調査委員であった弁護士が会社の元取締役らに対する損害賠償請求訴訟で会社を代理して行った訴訟行為は、弁護士法違反を理由に排除されるか~

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 本稿では、関西電力での不祥事の取締役責任調査委員会の委員であった甲弁護士らが、元取締役らに対する損害賠償請求訴訟において関西電力を代理することは弁護士法に違反し、甲弁護士らが行った訴訟行為が排除されないかが争われた、最高裁令和4年6月27日第一小法廷決定(以下、「本決定」といいます。)について、「1 事案の概要」、「2 弁護士法の規定」、「3 原審の判断」、「4 最高裁の判断」、「5 本決定の影響」に分けて検討します。

1 事案の概要

 関西電力は、元取締役らが、福井県内での原発事業に関して地元関係者から多額の金品を受領していたという事案(以下、「本件不祥事」といいます。)について、元取締役らの任務懈怠やこれによって生じた損害の有無を調査するため、甲及び乙弁護士(以下、「甲弁護士ら」という。)を含む4名の弁護士に委員を委嘱して取締役責任調査委員会を設置し、その調査の報告を受けていました。

 関西電力はその結果を踏まえ、令和2年6月、元取締役らに対し、会社法423条1項に基づき損害賠償を求める訴訟(以下、「基本事件」といいます。)を提起しました。

 これに対して元取締役らは、取締役責任調査委員として自らへの事情聴取を行った甲弁護士らが、関西電力側の訴訟代理人として訴訟行為をすること(以下「本件各訴訟行為」という。)は、弁護士法25条2号及び4号の各趣旨に反すると主張して、甲弁護士らを本件各訴訟行為から排除することを求める旨の異議を述べました。

2 弁護士法の規定

(1) 第25条
弁護士法25条は、弁護士が職務を行ってはならない案件について、

二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの(中略)

四 公務員として職務上取り扱つた事件

と規定しています。

 これらの規定は、弁護士を信頼した当事者の利益を保護する趣旨(2号)や、公務員として関与した事案について立場を変えて弁護士として処理することは許されないとする趣旨(4号)にでたものです。

 

(2) 違反による効果

 訴訟代理人が、相手訴訟代理人の弁護士法25条違反を知ったときは異議を申し立てることができ、申立てが認められたときは、当該訴訟行為は無効となります(異議説、最大判昭和38年10月30日民集17巻9号1266頁)。

 本決定は、元取締役ら側から、この異議の申立てがあったことに対する裁判所の判断です。

 

3 原審(大阪高裁)の判断

甲弁護士らが代理して行った訴訟行為は、弁護士法に違反し、排除される(弁護士法25条2号及び4号類推適用)。

① 弁護士法25条2号の趣旨に反する
 元取締役らは、取締役責任調査委員が、中立・公正な立場から自らの責任の有無を判断するものと考えたからこそ、甲弁護士らからの質問に素直に回答した。
② 弁護士法25条4号の趣旨に反する
 甲弁護士らの立場は、弁護士法25条4号が想定する裁判官と変わらない。

 

4 最高裁の判断

甲弁護士らが代理して行った訴訟行為は、弁護士法に違反せず、排除されない。

① 取締役責任追調査委員会の性質
 取締役責任追及委員会は、本件不祥事に関し、元取締役らへの損害賠償責任の有無を調査、検討するために、関西電力が設置したものである
② 元取締役らの認識
 事情聴取の結果が、元取締役らに対する損害賠償請求訴訟において証拠として用いられる可能性があることを当然認識していたというべき
③ 取締役責任調査委員の立場
 本件責任調査委員会の設置目的やその委員の職務の内容等に照らし、甲弁護士らが裁判官と変わらない立場にあったということもできない
④ 弁護士法25条2号や4号の類推適用
 弁護士に委任して訴訟を追行する当事者の利益や訴訟手続の安定等を考慮すると、同条の規定についてみだりに拡張又は類推して解釈すべきでない

 

5 本決定の影響

 本決定は、取締役責任調査委員であった甲弁護士らが、関西電力を代理して、元取締役らに対する損害賠償請求事件の代理人を務めることは、弁護法25条2号及び4号に違反するものではなく、甲弁護士らが行った本件各訴訟行為を、同各号の類推適用によって排除することはできないと判断しました。

 企業内で不祥事が発生すると、会社は、第三者委員会等の調査委員会を組織して、事実関係や原因の分析、再発防止などに関し調査を行います。そして前記調査委員会が調査報告書を提出し終えると、「責任調査委員会」などの名称で前記調査委員とは別の委員からなる委員会を設置し、役員等の法的責任の有無を調査し判定することが、実務上、行われています(オリンパスや東芝などがその例)。

 この責任調査委員会で役員等に法的責任があると判断されたときには、責任調査委員会の委員である弁護士が、会社の代理人となって、役員等に対する損害賠償請求訴訟を追行することが多くみられ、今回もその例です。

 このように責任調査委員会は、第三者委員会等の前記調査委員会とは異なる目的で組織されるものである以上、その調査にあたって会社及び役員等の双方が留意すべき点があります。

(1)会社が留意すべきこと ~調査にあたり適切な説明を~

 会社は、調査を進める際に、役員等の調査対象者に対し、責任調査委員会が中立的な判断をする組織であるとの誤解を抱かせないように注意をはらう必要があります。

 そもそも原審が、甲弁護士らを排除するとの判断をしたのは、元取締役らに手渡された本件不祥事の調査への協力を求める書面に、「調査の中立性、公平性を担保する」との記載があったことや、取締役責任調査委員会の委員長が「貴社の早期信頼回復のため」に事情聴取への協力を要請したことなどから、元取締役らが自らの主張や言い分をフラットに取り扱ってもらえるとの期待を抱いたことを重視したものと考えられます。

そこで会社としても、
① 責任調査委員会が、役員等に対する責任追及の可否・要否を判断するための組織であること
② 事情聴取等の調査をする際には、役員等に対して、当該事情聴取の趣旨や目的をしっかり明示した上で、
③ 聴取した事項の内容が役員等にとって不利益に用いられること可能性があること
といった点を、役員等に誤解を抱かせないように説明しなければなりません。

(2)役員等が留意すること  ~責任調査委員会は味方でも中立でもない~

 調査対象者である役員等としても、責任調査委員会が中立的な判断をする組織であるとの誤った認識を持たないように気を付ける必要があります。
 また調査に際し、事情聴取が行われる場合には、弁護士の同席を求めることも考えられます。仮に事情聴取に応じるとしても、弁護士等の助言を受けつつ、慎重な対応をすべきだといえます。

以上

 

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