政府の中長期計画に見る物流の「2024年問題」への対応

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 来月4月から、トラックドライバー等の自動車運転業務にも労働時間上限規制が適用されることから、物流サービスの停滞が懸念されています(いわゆる「2024年問題」)。政府は、物流の持続的成長を図るため、直面するこの問題への施策を「2030年度に向けた政府の中長期計画」にまとめました。

計画に掲げられた施策は、法改正、技術革新、事業者・消費者の意識・行動変容など多岐に亘っています。本稿では、物流企業だけでなく荷主企業等にも広く影響が及ぶと思われる、法改正に関する施策を主にご紹介します。

1 はじめに

今年2月16日に、政府の「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が、「2030年度に向けた政府の中長期計画」を公表しました。背景には物流の「2024年問題」があります。具体的な対策を講じなければ、輸送力不足に陥って物流が停滞することが懸念されることから、政府内で、物流の持続的成長を図るため必要な施策について検討が続けられています。

政府の中長期計画にある主要施策は、(1)適正運賃収受や物流生産性向上のための法改正等、(2)デジタル技術を活用した物流効率化、(3)多様な輸送モードの活用推進、(4)高速道路の利便性向上、(5)荷主・消費者の行動変容の5つに分けて示されています。こうした施策によって、初年度(2024年度)にトラックドライバーの賃金を10%前後アップさせたいと考えているようです。

本コラムでは、上記主要施策のうち、物流企業に限らず荷主企業等にも広く影響が及ぶこととなる「(1)適正運賃収受や物流生産性向上のための法改正等」をご紹介いたします。

2 中長期計画に盛り込まれている法改正等の概要

(1)荷主・物流事業者が取り組むべき措置等に関する法改正案のポイント

法改正案(流通業務総合効率化法)では、荷主及び物流事業者が物流効率化のために取り組むべき措置(努力義務)が設けられ、また、国がそれら措置に関する判断基準を策定し、荷主及び物流事業者の取組状況を指導・助言、調査・公表することになっています。さらに、一定規模以上の事業者には、中長期計画の作成や定期報告等が、一定規模以上の事業者のうち荷主には、物流統括管理者の選任が義務付けられることとされています。

上記のほか、貨物自動車運送事業法の法改正案では、トラック事業者の取引に対する規制的措置として、元請事業者に実運送体制管理簿の作成を義務付けたり、運送契約の締結の際に役務内容や対価等を記載した書面の交付を義務付けたりすること等が挙げられています。同法改正案には、軽トラック運送業において死亡・重傷事故件数が増加していることを受け、軽トラック事業者に対する規制的措置も定められています。

(2)トラックドライバーの賃上げ等に向けた「標準的運賃」及び「標準運送約款」の見直し

トラック事業者が適正な運賃を算出し、荷主と運賃交渉する際の参考指標としている、貨物自動車運送事業法に基づく「標準的運賃」が見直されることになっています。具体的には、燃料高騰分や高速道路料金等を適正に運賃に転嫁できるよう運賃水準の引き上げ幅を提示したり、荷待ち・荷役作業等輸送以外のサービスの対価につき標準的な水準を提示したりすること等が、見直しの内容です。

例えば、上記荷待ち・荷役作業は、現状では、契約内容になっていないにもかかわらず、運送業者が強いられて大きな負担となっているため、「標準的運賃」に、中型車への積込料(30分当たり単価)は機械作業なら2,180円、手作業なら2,100円との水準が明記されることになります。

上記と併せ「標準運送約款」も見直され、例えば、契約条件明確化のため、荷主・運送事業者は、それぞれ運賃・料金等を記載した電子書面を交付すること等が明記されることになっています。

(3)悪質な荷主・元請事業者への監視・指導の徹底

昨年7月、国土交通省が、適正な取引を阻害する疑いのある荷主や元請事業者の監視を強化するため、「トラックGメン」を全国に162名設置しました。トラックGメンは、違反原因行為の調査を行い、調査結果を踏まえて貨物自動車運送事業法に基づく荷主や元請事業者に対する「働きかけ」や「要請」による是正指導や、「勧告・公表」を行っています。

物流取引の適正化を図るため、行政による監視・指導を徹底することとされています。

3 社会全体で取り組むべき物流の「2024年問題」

2024年4月から、物流業界にも労働時間規制が適用されることになる(※)ため、ドライバー不足等による物流の停滞が「2024年問題」として懸念されています。この問題は、政府の中長期計画にもあるように、新たな法規制、技術革新、社会の意識・行動変容など、様々な角度からアプローチすべきものと思われます。

物流は社会生活や経済活動に必要不可欠なインフラですが、その担い手であるトラックドライバーは、以前から、多職種と比較して長時間労働・低賃金の傾向にあると言われています。物流サービスが持続的に供給されるためには、それを支えるトラックドライバーが健全に働けること、適正な賃金を得られることが、極めて重要です。物流技術の革新によって、近い将来に物流サービスの在り方が変わるかも知れませんが、現在直面している問題には、物流事業者だけでなく、荷主や消費者が新しいルールを前向きに受け入れて行動していくことが大切であると考えます。

以上

(※)労働時間の上限規制

労基法は、時間外労働の上限について、原則、月45時間、年360時間と定めています(限度時間、労基法36条4項)。そして、臨時的な特別の事情が認められる場合には例外が認められますが(労基法36条5項)、このような場合であっても次の制限が設けられています。

①1年の時間外労働時間の上限は720時間を超えないこと(労基法36条5項)

②時間外労働が45時間を超える月数は年6か月以内とすること(労基法36条5項

③1か月の時間外労働及び休日労働の合計時間は100時間未満とすること(労基法36条6項2号)

④対象期間の月と直近の1か月、2か月、3か月、4か月、5か月のいずれかの時間外労働及び休日労働の1か月当たりの平均時間が80時間を超えないこと(労基法36条6項3号)

これまで適用が猶予されてきたトラックドライバーのような自動車運転業務にも、2024年4月から上記規制が特例つき(①の上限時間が720時間ではなく960時間とされ、②~④は適用なし。)で適用されます。また、自動車運転業務については、労基法の労働時間規制だけでなく、拘束時間や休息時間等に関して定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」も遵守しなければなりません。

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