「働き方改革につながる!精神障害者雇用」第4回 発達障害

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 第4回 発達障害
特性を「強み」に変換
まず生きづらさを理解

◇誰しもに当てはまる
 人事労務の相談を受ける中で、課題や紛争の背景に発達障害があることが増えているように感じられる。発達障害の特性になまじ詳しくなったため、出会う人が皆、発達障害の視点で説明できるような気になってくる。悪い習性である。

 しかし、「発達障害」という見方によって救われた多くの人がいることも事実である。真面目に一生懸命やっているのに、周りから、「使えない人」、「空気が読めない人」、「融通が利かない人」、「やる気のない人」、「だらしない人」などと不本意な評価を受け落ち込んでいた人たちがいる。その人たちが周囲との間でギャップが生じるメカニズムを知ることによって、視界が開け、自分のありのままを受け入れることができるようになり、自身のことを他人に説明できるようになったとすれば、その効用は大きい。

 発達障害支援法が施行されてから12年。当事者が書いた本やブログを多数読むことができるようになり、マスコミも頻繁に取り上げるようになった。こうした情報に触れると、自分も発達障害かもしれないと思う人も多いのではないか。

 「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」という診断名に象徴されるように、発達障害は、濃淡・強度の違いはあれ、自閉症から定型発達までの幅広い人たちの間で共有されている特性である。現代の産業社会の尺度では、発達障害の特性は駄目なものとみなされるため、大多数の人が障害を隠し、世間の支配的な空気になんとか合わせて生きているに過ぎない。

 発達障害の特性として、一般的に挙げられるのは、①強いこだわり、②社会性の障害、③コミュニケーションの障害である。これらは企業が採用したい“優秀な人材”として求めるものの真逆である。

 だから、企業に「発達障害」への合理的配慮を求めることはハードルが高い。

 しかし、これらの特性は、本人が自覚したときから、やっつけ仕事をしない、迎合しない、流されないなどの強みに変わる。

無題

 企業がすべきことは、適材適所である。

 発達障害の方は、聴覚、視覚、触覚などの感覚に苦手を抱えていることが多い。ガヤガヤした人混みでひどく疲れてしまったり、電話が鳴り出すと動転してしまったり、照明が眩しくて頭が痛くなってしまったり、肌触りの合わない服を着るとどうも落ち着かくなってしまったり、苦手とするものは人それぞれであり、自覚していないこともある。

 しかし、イヤーマフやサングラスを使い、シンプルで穏やかな環境にいるだけで、随分と楽になる。

 一方、集中すると時間を忘れて没頭してしまい、へとへとになってしまう。疲れやすさは定型発達者の5倍といわれている。だから、こまめに休憩をとらなければならない。

◇本質は「感覚過敏」に
 長井志江(大阪大学)、熊谷晋一郎(東京大学)らの研究グループが「認知ミラーリング」という情報処理技術を用いた発達障害者支援に取り組んでいる。この研究グループは、「自閉スペクトラム症視覚体験シミュレータ」を開発し、誰でもヘッドマウントディスプレイを通して発達障害の方の視覚世界をリアルタイムで体験できるようにしている。明るいところではコントラストが強調されて目がくらむようになったり、大きな動きがあるものを見ていると、色が消えてぼやけてきたり(無彩色化・不鮮明化)、動きや音の大きな人混みでは、砂嵐状のノイズが現れたりする。

 発達障害の第4の特性である、このような感覚の過敏または鈍麻こそ、発達障害の本質ではないかといわれている。

 敏感と鈍感が同居していることに、他の特性を理解するヒントがある。非常に乱暴な説明をすれば、入ってくる刺激に対して、“ノイズキャンセラー”が付いていないため、一度に大量の情報を取り込んでしまい、普通の人が気に留めない情報までが頭の中を占領し、ワーキングメモリーがすぐにいっぱいになってしまう。そうすると、状況が変化しても、次の情報が入る余地はない。だから、他人の表情から察し、話の脈絡を追い、行間を読むようなことが苦手になるのである(正確な研究成果は、熊谷高幸「自閉症と感覚過敏」(2017年・新曜社)などを参照されたい)。

 発達障害の方たちが現代社会で感じている生きづらさを知ることは、私たち自身をより深く知ることでもある。

◇事例性と疾病性の間
 職場のメンタルヘルス不調への対応では、「事例性」(業務遂行の支障、職場での問題行動)と「疾病性」(病気の有無、症状)を分離し、事例性を優先して対応し、疾病性は医療に委ねることが推奨される。これは企業が労務管理を、医療が健康管理を担当する役割分担ということである。

 ところが、発達障害の場合、業務遂行がうまくできず、職場で問題行動をすること自体が発達障害の症状であり、事例性と疾病性が融合している。したがって、企業と医療の役割をきれいに分けることができず、混乱が生じやすい。

 そこで緊密な連携が必要になるのだが、双方に情報と理解のギャップがあるため、対立が生じやすい。企業が本人の特性に対する理解を深め、効果的な対応を学ぶことができるよう、また、医療が本人の職場での働きぶりや職場環境の情報を得て、より正確な診断を下し、適切な意見を提供することができるよう、間に入るコーディネーターの役割が重要になる。

 産業医や保健師、就労移行支援事業所等のジョブコーチ、リワーク機関のカウンセラーなど、内外の専門職がこの役割を上手く果たせるはずである。企業は、発達障害があることが分かって雇うときに限らず、メンタルヘルス不調者の背景に発達障害があることが判明したような時にも、人事や職場の中だけで抱え込まず、これら専門職の助言と支援を得ることを忘れないようにしたい。

弁護士 小島 健一

初出:労働新聞3134号・平成29年10月30日版

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