平成13年商法改正 取締役等の責任の一部免除

 「商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律案要綱(案)」が平成13年4月24日に発表された。その内容は、取締役等の責任の一部免除を認める規定・株主代表訴訟制度の見直し・監査役の員数等である。ここでは、そのうち、取締役の責任の一部免除について紹介する。

 取締役等の責任の一部免除は、株主総会の普通決議による場合と定款の規定に基づく取締役会の決議による場合があるとしている。いずれも、取締役等の責任が生じた後の責任の一部免除に関する。

 それに反して、事前に、定款に基づく契約で取締役の責任の一部免除を認めるのが、社外取締役の場合であるとする。そうでもしなければ、優秀な社外取締役に来てもらえないからある。

1 株主総会の普通決議による免除の場合
  1) 取締役がその職務を行うにつき、善意、かつ、重大な過失がないことが必要である。
  2) 株主総会の普通決議が必要である。
    [1] 責任免除の議案を株主総会に提出するには、大企業では監査役会の同意を要する。その同意は監査役全員一致でなければならない。
    [2] 株主総会では、取締役の責任原因となる事実及び責任額・責任免除の限度額及びその算定根拠・免除する理由及びその額が開示される。
  3) その効果として、損害賠償額から取締役の報酬2年分等を控除した額を免除できる。免除されない報酬等の内容についての定めもある。

2 定款の規定に基づく取締役会決議による場合
  1) 定款をもって、取締役が職務を行うにつき、善意、かつ、重過失がなかった場合であって、責任原因となる事実の内容、その取締役の職務執行状況その他の事情を勘案して特に必要があると認めるものであること。
  2) 取締役会決議が必要である。
・免除の議案を取締役会に提出するには、大企業の場合には、監査役会の同意を要する。この同意は監査役全員の一致でなければならない。
  3) 取締役の責任免除を認める取締役会決議に対しては、発行済み株式総数の20分の1以上の株式を有する株主が異議を述べたときは、責任免除はできないことになる。
  4) 責任免除の効果は、株主総会の普通決議の場合と同じである。

コメント
 従来の取締役責任が無制限で、事実上責任の制限ができなかったことは問題であった。取締役責任の基礎になる会社の経済活動は巨大であり、そのため、それに関して生じる取締役責任額が巨額であるのに反し、取締役の個人資産は微々たるものだからである。そのため、取締役責任をある程度支払い可能な範囲に制限することが現実的である。

 しかし、今回の要綱案には問題がある。1つは、取締役の職務執行に善意、かつ、重過失がなければ責任が制限されるという点である。つまり、従来の自民党商法小委員会案では、但し書きで、犯罪行為に基づく場合を責任制限から除外していたのを、今回の要綱案では、文理上、除外していない点である(私の誤解であれば良いが)。

 今回の要綱案では、取締役に犯罪行為があった場合でも、責任制限ができるということになるが、この点は賛成できない。おそらく、大和銀行株主代表訴訟事件判決の影響であろうが、コンプライアンスに本腰を入れようとする意欲が感じられない要綱案になっている。

 この要綱案は、優れた経営者に目を向けず、最も程度の低い経営者を救済する機能を持つことになる。この要綱案には、日本の将来の希望が見えない。反倫理的な現状をただ肯定しただけの現実との妥協の産物に過ぎない。今日本が求めているのは、世界に通用するコンプライアンスの確立ではなかったのか。

 また、株主総会の普通決議で責任を免除するというのも問題がある。経営判断に関する軽過失を救済する場合なら株主総会の普通決議でも賛成であるが、犯罪行為の場合まで責任制限を認める要綱案であるならば、株主総会の普通決議では説得的とはいいがたい。

 さらに、定款の規定にもとづく取締役会決議でも責任制限を認めるというには、賛成できない。独立性の高い社外取締役が過半数の取締役会決議ならば説得的であるが、そうではない現状では、取締役会がチェック機能を果たす筈もないからである。

 要綱案は、取締役の責任を制限することばかりを考えすぎたため、コンプライアンスを大きく損ないかねないものになっている。日本が欲しいのは、経営手腕も企業倫理の面でも優れた経営者である。ところが、要綱案は、最も倫理的でない経営者を救済するという護送船団方式の古い体質の立法である。

 取締役の責任制限をする方向には賛成であるから、グローバルな企業経営者を支援するような案に手直しすべきではないだろうか。経営判断の軽過失を救済する、以前の自民党商法小委員会の案へ戻るべきである。

(文責 弁護士 鳥飼重和)

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