経営者に必須の法務・財務 法務は収益部門である例

 前回、法務は収益部門であり、紛争等の後始末ばかりする部門ではないと述べた。今回は、法務が収益部門であることの例を示すことにする。例えば、リップルウッドホールディングスが旧長銀を国から買収したことを考えよう。

 その件で国が気にしていたことは、旧長銀からの借り手企業に対する貸金の回収を制約することである。そうでないと、借りて企業の中から多くの倒産企業がでて、社会に不安を与えることになるからである。

 そのため、旧長銀の売却の条件として、借りて企業に対して3年間は貸金を回収しないということが必要となった。これは、反面、旧長銀を買収する側の大きなリスクとなる。3年間も回収を制約されると多額の不良債権が発生して、買収側の大きな負担になる可能性があるからである。

 その結果、旧長銀の買収先に残ったのは、リップルウッドホールディングスだけとなったと報道されている。ところが、リップルウッドホールディングスは、契約交渉の中で、計画書の特約条項をいれることで、多額の不良債権が出てもリスクが最小限になる工夫をした。

 つまり、買収後3年間は借りて企業から債権の回収をしない代わりに、その3年間の間に貸出債権の2割が不良債権化したときには、その債権を国が簿価で買い取るという特約条項を入れたのである。

 この特約条項は弁護士等法務専門家を交渉の最初から関与させることで可能になることである。最初から弁護士等を入れないと、大きなリスクの前に交渉を断念する事が多いからである。法務の専門家でない方の多くは、法律手段の多様性に関する理解がないから、オール・オア・ナッシングの考え方になりがちだからである。弁護士等の法務専門家は目的さえ明確であれば、それを達成する手段を次々に考え出すからである。

 リップルウッドホールディングスの例は、ほんの一例に過ぎないが、この例から、リップルウッドホールディングスがどれだけの収益をあげたかは、想像できるであろう。法務部門を戦略部門にするアメリカ企業の収益性が高いのもうなづけるといえる。
(文責 鳥飼重和)

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