取締役会事務局に求められるモデルチェンジ~「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取り組みを推進する旗振り役へ~

 2025年4月30日に、経済産業省から、「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(以下「「稼ぐ力」のCGガイダンス」といいます。)と企業事例集が公表されました。「稼ぐ力」のCGガイダンスは、CGコードへのコンプライが目的化し、CGに関する取り組みが形式的な体制整備にとどまっているケースが多い実態を受けて、実効的なCGの下、「稼ぐ力」を強化していくための取り組みを支援する目的で策定されたガイドラインです。同ガイダンスでは、「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取り組みの前提となる考え方、取り組みの進め方、検討ポイント・取組例及び企業事例が示されており、取締役会、CEOら経営陣、取締役会事務局等が、「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取り組みを行う際に活用されることが期待されています。
 「稼ぐ力」のCGガイダンスには、CGに関する取り組みを稼ぐ力の向上に結び付けるうえで有益な様々な内容が記載されていますが、中でも、取締役会事務局機能の強化が主要テーマの一つとして掲げられたことが注目されます。これまで、取締役会事務局の重要性はあまり認知されてきませんでしたが、CG先進国である米国や英国では、ガバナンス専門職であるコーポレートセクレタリー(英国ではカンパニーセクレタリー)が、取締役会事務局業務も含めたガバナンス実務を主導することで、モニタリングボードを機能させ、取締役会の実効性を高めています。日本でも、CGコードの導入後、グローバル上場企業を中心に、社外取締役を中心とするモニタリングボードモデルが志向されるようになりましたが、モニタリングボードを機能させるためには、取締役会事務局による社外取締役への積極的なサポートが欠かせません。グローバル上場企業としてモニタリングボードモデルを志向する場合には、取締役会事務局を、従来のような庶務的な役割のみを担う存在から、CGや取締役会の実効性の担保・向上の中核的役割を担う存在へとモデルチェンジさせることが求められます。
 取締役会事務局が重要になるのはグローバル上場企業だけではありません。スタンダード市場上場企業を中心とする国内中小型上場企業においても重要な存在です。稼ぐ力に課題があり、低PBR状態を解消できていない企業では、稼ぐ力と株価の向上に向けて、取締役経営陣のマインドセットの切り替えが必要になるケースが少なくなく、こうした企業では、取締役のトレーニングや取締役会実効性評価などのツールを有効に活用しながら取締役経営陣のマインドセットの切り替えを後押しすることも取締役会事務局に期待される重要な役割になります。
 取締役会事務局が、取締役の日程調整や議事録作成などの庶務的な役割を超えて、コーポレートガバナンスや取締役会の実効性の担保・向上に関しても実効的な役割を果たしていくためには、会社法、CGコード、ファイナンス、資本市場、コンプライアンス、リスクマネジメントなどの上場企業経営に関わる様々な領域に関する知見を総動員した部門横断での取り組みが必要になります。これを実現するためには、英米上場企業のようにガバナンス統括部門・責任者を設置することが望まれますが、大幅な組織変更は難しい場合が多いと思われますので、法務・コンプライアンス、経営企画、総務、IRなどの関連部門の担当者が専門外の領域についてもリテラシーを高めつつ、部門間で密に連携を図りながら対応するのが現実的な選択肢になる場合が多いでしょう。企業事例集(企業事例49~51参照)では、部門横断での取組事例が示されており、参考になります。
 米国や英国では、法務担当役員(CLO)がコーポレートセクレタリーを兼務するケースも多く、取締役会支援業務では、法務・コンプライアンス担当者の活躍も期待されます。

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投稿者等

久保田 真悟

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