鳥飼総合法律事務所

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【連載】「働き方改革につながる!精神障害者雇用」第6回 職場の定着後の課題

 
投稿者
小島健一
取扱分野
コンプライアンス
人事・労務
鳥飼総合法律事務所
 

第6回 職場定着後の課題
“やりがい”が必要に
定期評価には功罪が

◇制度が期待を裏切る

 前回、精神障害者や発達障害者の雇用における最大の課題は職場定着にあると述べた。しかし、企業が「定着してくれた」と思うタイミングで、転職を考える障害者が増えているそうである。体調の悪化や、人間関係の問題が理由ではない。現在の仕事にどこか物足りなさを感じ、もっとやりがいのある仕事を求め、転職を検討することが少なくないのだという。

 特例子会社や障害者雇用に積極的な企業が集まると、どの会社もこのような課題を感じており、障害者の人事管理にも目標管理に基づく評価制度を入れ、昇給・昇格のキャリアパスを示す人事制度を整備するべく動いているという話題で持ちきりになる。特に発達障害者は、ルールを重んじ、先の見通しが明確であることを求める特性があるから、このような人事制度の導入が必要だというのだ。

 ただ、筆者は、このような動きに危うさを感じている。評価制度の導入は、はじめは歓迎されるかもしれないが、発達障害にはそのような特性があるがゆえに、早晩その期待を裏切ることになりはしないだろうか。

 年に1~2サイクル程度の目標管理面談、他部署との評価レベルの調整、相対評価によるランク付けとこれに連動する昇給・賞与の分配といった典型的な人事制度は、一見、明快なシステムであるようでいて、あいまいさや不透明さがある。発達障害者が、そのような“あいまいさ”を受け入れられるだろうか。

 「No Rating(ノーレイティング)」という人事制度の新たな潮流がある。2012年頃から、アメリカでは、社員の年次評価とランク付けを廃止する企業が増えている。「VUCA」(=Volatility〈不安定〉、Uncertainty〈不確実〉、Complexity〈複雑〉、Ambiguity〈曖昧模糊〉)と呼ばれる昨今のビジネス環境においては「アジャイル(俊敏)」な仕事のプライオリティ(優先順位)変更が求められ、これには年単位の目標設定とフィードバックでは対応できなくなった。かえって、失敗をおそれる萎縮、チーム内の協力の減少、中間層のモチベーション低下といった弊害が強く表れてきた。個人の成長と企業の業績向上をリンクさせるためには「評価とフィードバック」は欠かせない。しかし、その効果を得るためには、もっと日常的に、上司と部下の頻繁な対話によって、日々の業務の記憶が鮮明なうちにタイムリーに行う必要がある。それができていれば、もはや年度末の評価とランク付けは不要である、というのである。

 期せずして、これを実践しているのが、前号で紹介したSPIS(エスピス)である。

◇改革の“ドミノ倒し”

 合理的配慮の提供は、個別的に行わなければならない。「障害者」といってもひと括りにはできず、強み・弱みは人それぞれであるからだ。こだわりが強い、裏表がない、ルールを守るなどが発達障害の特性としてよく挙げられるが、一人の発達障害者が全ての特性を有しているわけではない。決め付けは、むしろ能力の発揮を妨げてしまう。

 労働力人口が低下する中、日本企業が生産性を劇的に高めるためには、「ダイバーシティ&インクルージョン」を強力に推進するほかに途はない。

 「インクルージョン(包摂)」とは、全ての構成員が、ありのままで組織に受け入れられていると感じられ、そのアイデアや経験をオープンにすることをためらわず、持てる力の100%を発揮し、相互に影響を与え合うことができる組織文化である。ポイントとなるのは「インクルージョン」があってはじめて「ダイバーシティ(多様性)」は機能し、“イノベーション”という成果をもたらすということだ。しかし、インクルージョンを進めるためには、女性や外国人の積極的な登用だけでは不十分である。なまじ器用に適応できるので、既存の男性正社員を前提にした企業文化や職場風土に溶け込んでしまうのである。それほど、「男らしさ」や「日本人らしさ」への同調圧力は強固である。

 そこで、障害者雇用こそが、日本企業の「ダイバーシティ&インクルージョン」の決め手になる。筆者は、障害者雇用から始まる「働き方改革」の“ドミノ倒し”と名付け、企業にその効用を説明している。

 障害者は障害があるがゆえに企業に価値をもたらす。それは、障害者を利用者とする製品・サービスの開発やユニバーサル・デザインに貢献することだけではない。すべての社員が、障害者と一緒に働くことによって、優しくも、たくましくもなるのである。

 職場が障害者を受け入れ、戦力とするためには、職場の側から変化せざるを得ない。病気、育児、介護等の「制約のある社員」でも、メンタルヘルス不調の社員でも、新卒・中途入社したばかりの社員でも、「助けてもらう」立場であると同時に、「助ける」立場になる。最も制約がある者の戦力化にこだわることによる効果はここにある。誰もが、何らかの制約を抱える「弱い」存在であることを直視し、その「弱さ」を前提として、互いに助け合える関係になるのである。

 実際、精神障害者を雇用している企業では、メンタルヘルス不調による休職者が職場復帰後に安定的に働けている割合が高いことが確認されている。

無題(第6回)

弁護士 小島 健一

初出:労働新聞3136号・平成29年11月13日版

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