リスクコンシェルジュ~暴排条例をめぐって 第1回

 暴排条例って何?

平成22年4月に福岡県で罰則を伴う暴排条例が施行されてから僅か1年半ほどで、暴排条例は全国の都道府県で施行されました。
全国各地で、既に暴排条例に基づく勧告などの処分事例が多数発生しています。

 

暴力団を規制する法律としては、いわゆる暴対法(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)の存在が有名です。
暴対法は、暴力団員などによる暴力的要求行為を禁ずることが主な内容です。
この法律を活用して、警察が暴力団を取り締まることが主に期待されていると言えます。
つまり、暴対法のもとでは、「警察 vs 暴力団」という構図で暴力団排除活動が続けられてきたわけです。

 

1992年の施行以降、暴対法は一定の成果を上げ、全国の暴力団員や暴力団事務所の数などがある程度減少してきました。
しかし、その一方で、暴対法による規制強化などを受けて暴力団の活動は法律に触れぬように巧妙化され、暴力団そのものが表に出ず、いわゆるフロント企業を活用するなどして一般企業活動や証券市場などに接近し、企業の経済取引などの中から資金を獲得する活動を活発化させるようになってきました。
そして、暴力団の正式な構成員の人数は減少傾向にあるものの、準構成員の人数は増加傾向にあり、準構成員やいわゆる共生者などの暴力団関係者と一体となって、暴力団が引き続きその力を堅持しているという状況になっています。

 

そのような中で出てきた新しい流れが、暴力団排除条例(暴排条例)です。

 

暴排条例の内容は、各都道府県ごとに若干の違いがありますが、大まかな構成はほぼ共通しています。
その中で最も特徴的といえるのが、一般の事業者が暴力団関係者に対して利益供与を行うことを禁止する規定です(「利益供与の禁止」)。
きちんと通常どおりの代金を支払ってもらっていても利益供与の禁止に当たることもあり、注意が必要です。
どのような利益供与が禁止されるのかは、次回以降に具体的に説明します。

 

また、事業者がこうした利益供与の禁止に違反した場合には、利益供与を停止するよう勧告がなされたり、さらには事業者名が公表されるなどの制裁があります。
悪質な場合には、罰則(懲役ないし罰金)の適用もあります。
コンプライアンス意識が高まってきた昨今では、事業者名が公表されるだけでも、銀行取引が難しくなるなど、企業にとって致命的なダメージを受ける可能性が十分にあります。

 

暴排条例は、このような規定の導入により、一般社会から暴力団に対して、金銭的な収入や、暴力団の活動・運営に必要なサービスや物品などが供給される機会を減らすことによって、暴力団を社会全体から締め出していこうとしているのです。
つまり、暴排条例では、「社会全体 vs 暴力団」という構図での暴力団排除活動が期待されていると言えるでしょう。

 

別の視点からいえば、「暴対法の主たる対象者は暴力団」「暴排条例の主たる対象者は一般市民・事業者」という整理も可能です。
一般事業者、すなわち、あらゆる企業は、まさに当事者意識を持って暴排条例に対応する必要があるわけです。

 

鳥飼総合法律事務所

 

 

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