税務訴訟 通達行政は国家社会主義
通達行政は国家社会主義
課税実務は通達を中心になされている。通達は法令を行政機関である国税庁が解釈したものである。したがって、通達は国家機関を制約しても、国民を制約するものではない。ところが、課税実務の現実では、法令は忘れ去られ、通達のみが実務運用の基準になっている。これは、課税実務に係っている者は誰でも知っていることである。
つまり、課税実務では、租税法律主義ではなく、通達万能主義が取られている。その意味では、実際の機能からすると、通達は絶対的な法規範である。裁判実務も、裁判官は極めて少数の例外を除いて、通達を中心に税務訴訟を進行させている。
最近、裁判官の中に奇跡的といってよいが、法令解釈を先行させ、その解釈から通達の有効範囲を捉えようとしている方がいる。こと、税務訴訟において、社会経済常識とかけ離れた判決を書く裁判官が多くいる中で、租税法律主義の基本に立ち帰って裁判をするという当たり前のことを実践する裁判官が現れたことは、日本の将来に光明を見出した気がする。そのような裁判官の存在は、我々、法曹の誇りである。
本来、法令の解釈は解釈する人の立場・意図によって、多様性があるものである。同じ法令でも、課税庁の立場で解釈する場合と納税者の立場で解釈する場合とでは、解釈が異なるのが普通である。あるいは、その中間の解釈もありうる。このような多様な解釈の中から、裁判所も最も課税の公平や時代の要請にマッチした法令解釈をすべきなのである。
ところが、通達という国税庁が解釈したものを絶対視すると、課税庁の立場での解釈は許されるが納税者の立場での解釈は許されないことになる。つまり、法令の解釈権は納税者にはないことになり、常に法令解釈は国側が定めた1つのものしかないことになる。解釈が国側のする1つしか許されないのは、国家社会主義というべきである。
課税実務の現実は、通達中心の国家社会主義になっていることは明らかである。裁判官の多くが、この国家社会主義による課税実務を容認し、支えている。これでは、裁判所が法の番人だというのは虚構に過ぎなくなる。
たとえば、右肩上がりの時に作られた通達が今でも生きていて、右肩下がりの経済の下でも裁判所が問題意識なく適用しているが、信じがたいことである。「失われた10年」の意味さえ理解できない裁判官がいることが税務実務において、税務制度の欠陥を国側が負わず、国民に押し付けるというあってはならないことが現実に存在する最大の理由である。
通達行政を正しく、法令の下に置く租税法律主義に立つ裁判官が多く現れることが、課税実務の一部にある過酷・不当な課税から納税者を救う唯一の望みである。裁判官には課税の実際と時代の激変による社会経済常識の変化をもっと研究していただきたい。
(文責 鳥飼重和)
投稿者等 | |
---|---|
業務分野 |
関連するコラム
-
2024.09.13
奈良 正哉
株主対策は信託銀行
知った顔の写真が日経(9月13日)に載っていたので、また信託のことを書いてみよう。信託銀行は企業の…
-
2024.09.10
奈良 正哉
株式報酬の拡大
株式報酬を役員から従業員にまで拡大する動きが加速している(9月10日日経)。従業員の経営参加意識の…
-
2024.07.30
奈良 正哉
オリンピック番組の視聴率など
我が家はオリンピック番組を見ない。特に主義主張があるわけではない。ただ関心がないだけだ。東京の例外…
-
2024.07.26
奈良 正哉
小林製薬顧問報酬200万円
小林製薬は、事件の責任をとって会長を引いて顧問になった創業家一族の小林氏に対して、月額200万円!…
鳥飼 重和のコラム
-
2018.08.22
鳥飼 重和
褒めることの効用とそれをビジネスに活用できるか?
褒めると女性が美しくなる、これは、科学で証明されています。 褒めるのに効用があるため、…
-
2018.08.07
鳥飼 重和
全ての事態の羅針盤となる考え方を用意する、が正解
三原山の大爆発があったら、最優先に考えるべきは、人命の危険です。次に、適切な回避策を考える、これが人…
-
2018.08.06
鳥飼 重和
ルールと人命、どちらが重要でしょうか?
答えは、簡単だと思われるでしょう。そりゃ、人命の方がルールよりも重要だよ、となるでしょう…
-
2018.08.02
鳥飼 重和
一休さんの遺言で困難を乗り越えた その原因は?
なぜ、一休さんの遺言で、弟子たちは困難を乗り越えられたのでしょうか? その根っこに、人間は、どん…