経営者に必須の法務・財務 経営者が知るべき改正商法[1]

 平成13年度及び平成14年度における商法改正は、経営者にとっても理解しておくべき重要なものである。経営者による選択が必要な点が多い改正であるという面があると同時に、経営の根本の改革を要求している改正でもあるからである。そこで、今回から何回かにわたって、経営者的視点からの商法改正問題を取り上げることにする。

 改正の概要は、次のとおりである。
1 株式に関する改正
2 機関に関する改正
3 取締役の責任制限に関する改正
4 電子化に関する改正
5 計算・開示に関する改正

 今回は、株式に関する改正から解説したい。
株式に関する改正では、次のような点が大きな改正であった。
1 株式の大きさ
2 金庫株の改正
3 種類株式
4 新株予約権
経営的視点から見ると、資金調達に関するもの、経営支配に関するもの、取締役等のインセンティブに関するもの、株主代表訴訟に関するもの等に関連した改正である。

 まず、株式の大きさに関する改正は、出発点は資金調達的視点・資本市場対策的視点であったが、結局は、株主代表訴訟とか株主総会への影響が出るものとなった。その意味では、株式の改正は単なる法技術的なものにとどまらない。経営者は、少なくとも、改正の持つ経営的意味位は理解すべきである。

 株式の改正の出発点は、株式の分割であった。従来は、1株の大きさは大きい方が良いというのが立法思想であった。そのほうが、会社の株主管理コストが安く上がるからである。そのため、従来の商法は、1株の大きさは5万円以上が望ましいとの考えに立って、それを強制した。

 その1つの現われが、株式分割をした場合には、株式分割後の1株当たり純資産額が5万円を下ってはいけないという規制である。それにより、純資産が十分でない新興の成長企業が1株1000万円を超えるような株価がついたときに、株式の流動性を高めようとして思い切った株式分割をやろうとしても、できない事例が出てきた。

 今回の改正では、株式分割を思い切ってできるように、1株当たり純資産額5万円の規制を排除した。つまり、株式の大きさは会社が自由に決める事であるという発想に変わったのである。この発想により、株式の大きさを規制していた額面株式も廃止された。

 さらに、将来、1株5万円以上にする株式の併合をするために強制されていた単位株制度も廃止された。これも株式の大きさに関する規制だからである。この単位株制度では単位未満株主(999株以下の株主)は、普通株の株主ではないとして株主としての権利をほとんど認められなかった。株主代表訴訟提起権もないし、株主総会の決議取消権も認められなかった。

 この単位株制度に代わって、改正商法が認めたのが、単元株制度であった。ただ、単元株制度は株式の大きさは会社の自由であるという前提であるために、単元未満株主(999株以下の株主)は、原則的には普通の株主として扱われる。したがって、株主代表訴提起権がある。

 ただ、単元株制度を認めた趣旨が会社の株主管理コストの節約であるから、株主管理コストがかかる議決権及び議決権の存在を前提とする権利だけは制限される。そうだとすると、単元未満株主も株主総会の決議取消権はあることになりそうである。ただ、この点に関しては、争いがある。

 以上のように考えると、今までの単位株制度のときと単元株制度のときとは、未満株主の権利が相違し、それが株主代表訴訟・株主総会の決議取消訴訟に大きな影響を与える会社が出てくる。特に、999株以下の未満株主が数万人いる企業とか、未満株主の特殊株主が多い企業では経営的視点からの検討が必要である。その観点から、次回は端株制度を説明する。
(文責 鳥飼重和)

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