国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 ストック・オプション税制の拡充

第11回 ストック・オプション税制の拡充

 ストック・オプション税制は、ストック・オプションの権利行使時点において経済的な利益に課税されず、売却時に株式譲渡益課税が行われるという制度ですが、今年の改正でその対象が拡大されております。この措置の適用を受けるには、[1] 株主総会の決議に基づいて取締役・使用人との間で締結された契約に基づき付与されたものであること [2] 上場・店頭登録株式については10分の1を超え、未公開株式については3分の1を超える株式を有する大口株主等は除外されること [3] 付与決議の日から2年以内は権利行使ができないこと、[4] 権利行使価額は年間1,000万円を超えないこと [5] 1株当たり権利行使価額は契約締結時の1株あたりの価額以上であること [6] 権利行使により取得した株式は証券会社等に保管の委託等がされていることを、要件としております。平成13年11月の商法改正を受けた今回の税制改正は、親会社が50%超の株式を有する子会社の取締役・使用人等を上記 [1] の付与対照者に追加するとともに、[4] の権利行使価額の年間限度額は1,000万円から1,200万円に拡大されたほか、新株予約権の行使をする事ができる期間が付与決議の日から10年以内とされたこと、新株予約権の譲渡ができないこと等の契約要件が追加されました。 
 上記の「税制適格ストック・オプション」としての権利行使益については、行使時点の課税は行われませんが、「税制非適格」となるストック・オプションを権利行使した場合には、権利行使益に対して行使時点の課税が行われます。そして、この改正に伴い、権利行使益の所得区分については、[1] 子会社の役員・使用人が権利行使した場合は給与所得、[2] コンサルタントや弁護士などの社外の者が権利行使した場合は雑所得に該当することになろうと報道されております(「週間税務通信」No.2714 p6)。おそらく、現在係争中の「ストック・オプション税務訴訟」における国側の見解に従う限り、このように整理されるでしょうが、この結論で納得が得られるでしょうか。
 ご承知のとおり、本年4月に、大同生命保険相互会社が株式会社に組織変更することになりましたが、その際、保険契約者である社員に対し寄与分に応じて株式が割り当てられました。国税庁では、「社員が受ける株式割当に係る経済利益は、株式会社化に伴って偶然に実現する一時の所得であり、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価の性質を有しないものであることから、組織変更時に、個人については一時所得の収入金額、法人については益金の額に算入される」旨取り扱う事を明らかにしております(平成13年7月11日付け課審3-88ほか「大同生命保険相互会社が株式会社へ組織変更した場合の税務上の取扱いについて(通知)」。)
 この3月末に決定された大同生命保険相互会社のブックビルディング方式による売出価格は27万円でしたから、保険契約者である個人が1株または10株の株式を割り当てられた場合の経済的利益に対する課税は、次のとおりとなります。

・1株…(総収入金額)27万円-(特別控除)27万円=(一時所得の金額) 0
・10株…{(総収入金額)270万円-(特別控除)50万円}×1/2=(一時所得の金額)110万円

 その後、この大同生命保険株式を1株35万円で売却した場合には、株式等の譲渡にかかる所得は次のとおりとなり、申告分離課税(国税と地方税を合わせて26%の税率)が適用されます。

・1株…(総収入金額)35万円-(取得価額)27万円=(譲渡所得の金額)8万円
・10株…(総収入金額)350万円-(所得価額)270万円=(譲渡所得の金額)80万円

(注) 計算の便宜のため、売買手数料等は除外しております。

 このように、ストック・オプションを付与された場合の権利行使益と組織変更に伴う経済的利益の違いはあるとしても、株式を取得した者と発行法人との間において、[1]雇用契約に準ずる関係」がある場合(そもそもそのような関係があるかも疑問であるが)は給与所得 [2] 「委任契約または顧問契約の関係」がある場合は雑所得 [3] 「保険契約の関係」がある場合は一時所得と分類され、課税所得額に差異が出るのはいかがでしょうか。理屈はともかくとして公平という観点からは説明が付け難いと思われます。

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