内部統制と成長戦略 内部統制は財務諸表監査の補佐
内部統制は財務諸表監査の補佐
1 財務諸表の重要性
金融商品取引法における内部統制システムの構築の要請は、財務報告の信頼性の確保を図ることで投資家を保護しようとするためである。
投資家は、会社の将来の成長の可能性を判断して投資するかどうかを決める。会社の将来の成長の可能性は、基本的には、会社の過去の活動状況や現状の財務状況を基礎データとして推測する。その基礎データが財務諸表である。その意味では、会社の公表する財務諸表が信頼できるという前提で成り立っているのが、投資市場である。したがって、投資家が安心して投資市場に参加できるようにするには、最小限、会社の公表する財務諸表が信頼できるものであることが保証されなければならない。
ところが、米国でも、日本でも、著名な大企業が公表する財務諸表が虚偽で信頼できないという事件が多発した。即ち、米国では、エンロン・ワールドコムに代表される虚偽の財務諸表の公表による会計不正問題が起きた。日本でも、カネボウに代表される虚偽の財務諸表問題が生じた。いずれの事件も、組織的なものであり、経営トップが指導的役割を果たしていた。
このような会計不正があるようでは、投資家は安心して投資ができず、投資市場から逃避しかねない。そのため、会計不正が行われないような仕組みを構築し、財務諸表に対する信頼性を回復することが急務となった。そこで、まず米国で、SOX法が制定された。その後、日本も、基本的考え方は同じである日本版SOX法として金融商品取引法を成立させた。
2 財務諸表の信頼性と内部統制
現実に、経営者主導による組織的な粉飾決算等の会計不正が行われる以上、財務諸表の信頼性を確保するには、財務諸表に対する外部者の監査を厳しくする必要がある。その一つが、社外監査役中心の監査、あるいは監査委員会による監査である。もう一つが会計監査人による財務諸表監査である。会計不正を契機に、財務諸表監査が不正発見型の監査に転換し厳しさを増しているのは、会計監査人という社外の存在に期待するところが大きいためである。その反面、会計不正を見逃した監査法人に対しては、金融庁から厳しい処分が出されている。
以上のように、財務諸表の信頼性を回復する中心は、財務諸表監査となるだろう。それを補充する意味で、経営者を中心にした内部統制システムの構築と運用を適正にしようとするのが法律の基本的発想であると考えられる。換言すれば、財務諸表の監査が主であり、内部統制の構築とその自己評価、それについての監査という内部統制は従たる位置づけを持つと考えられる。その意味では、財務報告に関する内部統制を考える場合には、常に、財務諸表の監査を踏まえて考える必要がある。特に、日本の場合には、財務諸表監査を担当する会計監査人と内部統制報告書を監査する監査人とは同一人となることが予定されているから、財務報告に関する内部統制を考える場合には、財務諸表監査の影響を意識すべきである。
今後、監査の重要性が強調されることから、監査の専門家の要請が生まれよう。監査役の中の一人は会計の専門家が必要だとか、内部監査人の専門性を問われる。
(以上、生産性新聞2007(平成19)年2月15日号より転載)
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