会社法QA(平成26年改正後版) 第19回 株式買取請求権
【解説】
1 株式の買取価格は「公正な価格」に!
事業譲渡や合併等の組織再編を行う場合には、反対株主の保護のため株式買取請求権が認められています(会社法469条、785条等)。この株式買取請求権が行使された際に会社が株式を買い取る価格については、会社法では「公正な価格」によって買取がなされることとなっています。これにより組織再編行為自体には賛成するが、それに伴い交付される財産の価額に不満を持つ株主の利益をも保護しうることになります。
2 会社法では議決権制限株式や簡易組織再編などの場合にも株式買取請求権が行使できることが規定されています(会社法469条2項、785条2項等)。ただし,平成26年の会社法改正により,簡易組織再編等の存続会社側や簡易事業譲渡の譲受側の買取請求はなし得ないこととされました(会社法797条1項ただし書,469条1項2号)。これは、会社に大きな影響を及ぼさないから簡易手続としているのに、買取請求を認める必要はないからです。
権利行使期間は,組織再編行為等の効力が発生する20日前の日から効力発生の前日までと定められています(会社法469条5項、785条5項等)。
3 買取請求権の行使の取下げには会社の同意が要件に!
会社法では、一度買取請求をした以上は、会社の同意がなければ買取請求を取下げることはできないものとし、濫用的に株式買取請求権が行使されることを防止しています(会社法469条7項、785条7項等)。
4 「公正な価格」の判断枠組み
組織再編等のため、株式交換やTOB後に全部取得条項付種類株式の方法を利用して少数株主をスクイーズアウトする場合など、組織再編等の際の株式取得(買取)価格の判断について、最高裁は、当該組織再編等により、対象となる会社の企業価値が増加するのか、それとも増加しないのかに分類して判断の枠組みを示してきました。
すなわち、平成23年決定(TBS事件)のように企業価値が増加しない場合には、いわゆる「ナカリセバ価格」(客観的価値)をもって「公正な価格」としています。
他方、企業価値が増加する場合には、客観的価値に増加価値株主分配分を加えたものをもって「公正な価格」としており(最決平21.5.29 レックスHD事件)、下級審は、これに従って、公正な価格を判断してきました。
ところが、平成24年決定(テクモ事件)において、最高裁は、企業価値を増加させる独立当事者間の株式移転の方法による組織再編が行われた場合における「公正な価格」について、一般に公正と認められる手続により株式移転の効果が発生した場合には、特段の事情がない限り、当該株式移転における株式移転比率は公正なものとみるのが相当であるとして、手続の公正性を重視する考え方を示しています。そして、最高裁は、平28.7.1の決定(JCOM事件 民集70巻6号1445頁)で、一般に公正と認められる手続によりTOBが行われた場合、価格決定手続において、TOB価格を尊重する旨判示しました。最高裁は株価算定に当たり、実体的正義から手続的正義を重視する立場に軸足を移したものと考えられます。(資料版/商事法務2017年8月号36頁以下「東京建物不動産販売株式買取価格決定申立事件」)
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