不動産取引に必須の印紙税の知識(28)総復習(前編)

著者等

山田 重則

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月刊 不動産フォーラム21 連載

業務分野

印紙税相談

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不動産取引に必須の印紙税の知識(28)
―総復習(前編)―

1 今回のテーマ
 印紙税に関する本連載も今回を含め、残り2回となりました。そこで、本連載の担当執筆者2名から、これまで連載で取り上げたテーマのうち特に重要なものについて、今回と次回とでその要点を再度、解説します。

2 印紙税実務上の「契約書」 「一定の契約書には印紙を貼らなければならない」ということは広く知られているかと思います。しかし、印紙税実務上の「契約書」の意味について正確に理解されている方は少ないといえます。そのため、思いもよらない文書が「契約書」となり、印紙の貼り漏れが生じることがまま起きます。「契約書」については、本連載では、主に第1回から第4回、第13回で解説をしました。

 ① 契約書かどうかは名称ではなく内容で判断する
 文書の表題が「契約書」かどうかで判断するのではなく、その文書が契約当事者の意思表示の合致を証明する目的で作成された文書かどうかで判断します。そのため、文書の表題が「議事録」や「案内書」となっていたとしても、そこに契約当事者の意思表示の合致の事実が記載されていれば、「契約書」に当たります。

② 契約には予約も含まれる
 将来、契約を成立させることを約すること(=予約)を証明する目的で作成された文書についても「契約書」に当たります。

③ 契約の成立以外の事実を証明する文書も「契約書」になる
 契約内容を変更するために作成される契約書や当初の契約で不足していた点について後から追加するために作成される契約書についても「契約書」として印紙を貼らなければならない場合があります。契約当初に作成した契約書に印紙を貼れば足りるわけではないという点には注意が必要です。

④ 一方当事者の作成する文書も「契約書」になる
 「契約書」というと契約当事者の双方が署名、押印する文書が一般的です。しかし、印紙税実務上は、契約当事者の一方が作成する文書も「契約書」に当たりますので、この点は特に注意が必要です。契約当事者の一方が作成する文書が「契約書」に当たるかどうかは、文書の表題、合意の成立を示す文言の有無、債務の承認の有無といった点を考慮して判断することになります。詳細は、第13回の本連載をご参照ください。

⑤ 図面であっても「契約書」になる
 「契約書」とは、両当事者の意思表示の合致を証明する目的で作成された文書をいいます。両当事者の意思表示が文字で書かれていることは必要ではありませんので、例えば、図で書かれていたとしても「契約書」に当たります。

3 契約金額
 第1号文書(不動産の譲渡等に関する契約書)や第2号文書(請負に関する契約書)など、いくつかの課税文書についてはその文書で合意された金額(契約金額)によって印紙代の金額が異なります。また、文書によっては契約金額が一定額以下の場合には非課税文書として印紙代がかからない場合もあります。そのため、ある文書の契約金額をいくらとして判断するのかという点が問題となります。

 どのような金額が契約金額に当たるのかは、その文書がどのような取引を定めているかによって変わります。そのため、まずは、その文書で定められている取引がどのような契約(売買なのか請負なのか賃貸借なのか等)に当たるのかを判断する必要があります。

 また、文書中に何らかの金額が記載されていたとしても、その文書はその金額を証明するために作成されていない場合もあります。この場合には、契約金額には当たりません。

 契約金額については、本連載では第19回から第21回にかけて解説をしました。

6 印紙を貼る必要がある者
 ある文書に印紙を貼らなければならない場合、誰が印紙を貼る必要があるのかが問題となります。これは、特に、印紙の貼り漏れが見つかった場合、誰がその印紙代を国に納めなければならないのかという形で問題が顕在化します。

 印紙を貼る必要がある者は、その文書がどのような文書であるかによって変わります。

 例えば、一般的な契約書の場合には契約当事者の双方が署名、押印をすることになりますが、その場合には、契約当事者の双方が共同して印紙を貼らなければなりません。「共同して」の意味ですが、契約当事者が印紙代を折半するという意味ではなく、契約当事者のどちらか一方が印紙を貼れば、他方は印紙を貼らなくて済むということを意味します。

 また、例えば、金銭の受取書や請負契約において作成される請書のように一方から他方に対して交付される文書の場合には、文書を交付する者が印紙を貼る必要がある者に当たります。そのため、このような文書を交付する者が印紙を貼った上で、他方に文書を渡す必要があります。

 印紙を貼る必要がある者(文書の作成者)については、本連載では主として第6回で解説をしました。

7 基本契約書と個別契約書の区別
 印紙を貼らなければならない文書は20種類に限られますが、そのうち継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)という文書があります。いわゆる「基本契約書」と言われるものです。この場合、印紙代は一律4000円となりますので、20種類の文書の中では、比較的、高額の印紙代を支払う必要が生じます。そのため、ある文書が複数の取引について定める継続的取引の基本となる契約書に当たるのか、あるいは1度限りの契約について定める個別契約書に当たるのかの判断は、実務上、頻繁に問題となります。

 継続的取引の基本となる契約書とは、契約当事者間で何回も同じような取引が反復継続する場合に、それらの複数の取引に共通して適用される取引条件を定める契約書のことをいいます。他方で、個別契約書とは、契約当事者間における個々の権利義務を定める契約書のことをいいます。

 部品の加工請負契約を締結したAB間で、目的物を「部品X」、単価を「1個あたり200円」と合意し、その後、その部品の発注の際にはその都度、数量だけを発注書と請書で合意するという方法で取引を行う場合があります。例えば、AがBに対してX部品100個の受注を受けるという請書の提出した場合、「AはBに対してX部品100個を引渡し、BはAに対して2万円の対価を支払う」という合意(契約)が成立することになります。この場合、AがBに対して100個の部品を引渡し、それに対してBが2万円を支払えば、その契約はそこで終了となります。そのため、請書の提出によって成立する合意は1度限りの契約であるため、請書は個別契約書に当たります。他方で、目的物を「X部品」、単価を「1個あたり200円」とする部分は、AB間で成立する個別契約の全てについて共通して適用される条件に当たります。したがって、目的物を「X部品」、単価を「1個あたり200円」とする当初の契約書は、継続的取引の基本となる契約書に当たります。

 このように、ある文書が継続的取引の基本となる契約書に当たるかどうかは、その契約書で定めている内容が複数の契約に適用されるかどうかによって判断します。

 継続的取引の基本となる契約書と個別契約書の区別については、本連載では第26回で解説をしました。

8 まとめ
 本連載では、不動産取引において作成される文書を中心に、印紙税の観点からよく問題となる事項を取り上げてきました。これまでの連載で概ね問題となる事項は全て解説することができたと思います。今回の連載中、理解が不十分と思われる箇所についてはそれぞれの連載箇所に戻って復習をしていただけますと幸いです。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則

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