今週の名言 第5回 2004.04.01
Thursday, April 1, 2004
「今の消費は、完全に心理学の分野に入っています。しかし、多くの人は、いまだにこれを経済学の分野だと考えています。」
 この言葉は、イトーヨーカ堂の鈴木敏文会長の著書からの引用である(同会長著「商売の原点」61頁、講談社)。消費の行動を心理学で捉えるのと、経済学で捉えるのとでは、相当違った考え方になる。
 減税をしたら消費が増えるかは、国民心理の傾向を考える必要がある。もともと消費意欲の強い国民心理が支配的なアメリカで減税をすれば、減税によって自由になった金額をアメリカ国民は消費する可能性が高い。
 貯蓄民族である日本で減税をしても、将来に不安がなく、無理に貯蓄に必要のない場合でない限りは、減税分の金額を貯蓄に回す可能性が高く、消費の増加につながらない。給料がそう多くなく、可処分所得の少ない女性従業員は、バッグを買う場合には、経済学的には、安いバッグを買うはずである。ところが、高価この上もない有名ブランドのバッグをためらいもなく買う。これは、消費行動が価格的要素よりも、価値的要素に重点を置いているという心理的要素でしか理解できない。
 貧しい時代には、少ない金額を有効に使うためには人は皆、同じ効用の物を買うときには安いものを買うという同じ行動をとることが多い。この場合には、経済学的考察が妥当する。しかし、豊かな時代には、それぞれの人は自分の求めている価値に従った個性のある行動をする。この時代では、各自の価値を重視するという消費者の心理に適応することが必要となる。
 その意味では、製造業者は良いものと自分たちが考えているものを社会に提供するというよりは、消費者が価値を認めてくれるものを提供するという考え方にならなければならない。そのためには、消費者の立場に立って、その心理を理解し、その理解に立った商品やサービスの提供をしなければならない。この点は、言うは易く行いは難し、ということであるが。
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