税務訴訟 日本興業銀行事件の逆転判決

日本興業銀行事件の逆転判決

 日本興業銀行事件については、東京地裁が平成13年3月25日に原告勝訴判決を言い渡した。これに対し、同事件の控訴審であった東京高裁は、平成14年3月14日に、原判決を破棄して、原告の請求を棄却する逆転判決を言い渡した。

 この事件は日本興業銀行(以下、興銀)が、平成8年3月期に住専の日本ハウジングローン(以下、ハウジングローン)に対する貸付金3,760億円を解除条件付で債権放棄をし、その債権全額を貸し倒れ損失として損金の額に算入して行なった申告に対する更正処分の取消請求を求めている事件である。

 中心の論点は2つある。その1は、興銀がハウジングローンに対して持っていた貸付債権について、興銀が貸倒損失とした平成8年3月末日の時点で、その全額が回収不能かである。
 第2は、興銀からハウジングローンに対してなされた貸付債権の放棄に解除条件が付されていたことから、その放棄によって、法人税法上の損金として評価できる損失が発生したといえるかである。

 第1の論点については、東京地裁は、債権の回収が可能か否かは、社会通念を基準に立て、本件では債権の回収は社会通念から不能であったと判断した。この点についての東京高裁は、債権の回収が可能かどうかは法的事実的に可能か否かを基準にして、住専に一定の資産が残されていることから、債権の全額の回収は不能ではないと判断した

 第2の論点について、東京地裁は、債権放棄が解除条件でも、債権放棄の意思表示がある以上は条件成就が未定の間でも、権利が確定的に発生しているから、損失は発生していると判断した。この点についての東京高裁は、債権放棄に解除条件を付したのは、本件における事実関係が流動的だったからであり、その流動的な事実関係が落ち着いたときである解除条件の条件の不成就が確定したときに損失が発生したと見るべきだとして、本件では、まだ損失は発生していないと判断した。

 東京地裁と東京高裁のいずれの判断が正しいのかは、ここでは論じない。ただ、債権の回収可能性に関しては、東京地裁が回収可能性がないというのを、東京高裁は回収可能性があると考えていることから、東京高裁の方が債権償却に厳格な立場である。また、損失の評価に関しても、東京地裁は損失として認めているのを、東京高裁はまだ損失とは認めがたいといっているのであるから、東京高裁の方が損失評価において厳格である。

 東京高裁がこのように厳格な解釈を取った理由は何であろうか。東京高裁は、興銀の株式売却益4,603億円の課税負担を回避するために本件の債権放棄をしたと考えている。
 そのことから、本件の債権放棄の損金性を厳格にしたのかもしれない。いずれにしても、東京高裁の判決が正しいのか、それとも、東京地裁の判決が正しいのかは、いずれの判決が企業活動の常識に合致するかにかかっているといえよう。
(文責 鳥飼重和)

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