経営者に必須の法務・財務 経営者が知るべき改正商法[5]
トラッキング・ストック
トラッキング・ストックとは、発行会社の子会社・特定事業の業績のみに連動する発行会社の株式のことをいう。改正商法は、トラッキング・ストックを認めた。これによって、経営者は子会社等の支配を維持しつつ、投資家にとって魅力のある子会社を活用して様々な経営課題の解決ができることになった。
例えば、甲社が資金調達をしたいと考えたとする。甲社に魅力があれば、甲社自体の魅力で様々な資金調達をすればよい。しかし、資金調達をするには甲社の魅力では十分ではない場合がある。そのときに、投資家からすれば、甲社の子会社であるA社に魅力があった場合に、甲社の資金調達にA社を利用しない手はない。
一般的には、A社を上場させて、保有する株式を売却する事で甲社は資金調達することになる。しかし、連結決算の時代には、魅力のある子会社は100%子会社とすることが重要である事から、完全子会社である状態を続けたまま、子会社の魅力を利用する方法がトラッキング・ストックである。
 つまり、甲社はA社を完全子会社として維持しつつ、A社の魅力を利用して、A会の業績にのみ連動する甲社の種類株式を発行することで、必要な資金調達ができるのである。
 このように、子会社の投資家等に魅力がある場合には、トラッキング・ストックは親会社である甲社の経営課題の解決に大きな役立ちをする。
例えば、甲社は、X社を買収したいと考えていたとする。この経営課題を達成するためには、どうすべきか。X社のほとんどの株はY氏が保有していたとする。Y氏が金銭に興味をもっていたとすれば、甲社は株式取得による買収をすれば足りる。しかし、Y氏が現金よりもX社株のほうの価値を高いと考えているときは、株式取得による買収はできない。
これに対し、Y氏が甲社株の価値を認めてくれる場合ならば、甲社株とX株の株式交換が可能である。ところが、Y氏が甲社株の価値を認めてくれないときには、この株式交換は成立しない。それでは、Y氏が甲社の子会社であるA社に興味を持っていたとすれば、甲社はA社の業績と連動する甲社の種類株式をもって、X株式と交換すれば、甲社の経営課題は解決される。このように、トラッキング・ストックは、企業買収の手段として活用できる。
 これ以外にも多様な活用ができるので、次回にそれを紹介したい。
(文責 鳥飼重和)
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