ジョブ型人事指針の公表について
2024年8月28日、内閣官房、経済産業省および厚生労働省は「ジョブ型人事指針」(以下「本指針」といいます)を公表しました(※1)。この指針は、、同年6月21日に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」を受けて策定されたものとなります。
ジョブ型人事制度とは、企業が従業員に対し職務内容を明確に定義して雇用契約を締結し、評価においても勤続年数などではなく職務や役割で評価する制度をいいます。ジョブ型人事制度に対して、新卒一括採用、会社主導でジョブローテーションを行い勤続年数などで評価をしていく制度をメンバーシップ型人事制度といい、従来日本はこの制度を採用していました。しかしながら、従来の雇用制度の下では、新卒一括採用中心、異動は会社主導、企業から与えられた仕事を行うことが通常であるために、将来に向けたキャリア形成ができるのは人事異動次第であり、従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくく、その結果、最先端の知見を有する専門性を有する人材が採用しにくい、若手を適材適所の観点から抜擢しにくいという問題が生じていました。さらに、日本以外の国ではジョブ型人事が一般的になっているため、優秀な人材を外部から獲得しにくい、といった日本企業の競争力維持への危機感が生じることとなりました。
そこで、今回公表された本指針では、ジョブ型人事制度を導入した日本企業20社の取組みについて、①制度の導入目的、経営戦略上の位置付け、②導入範囲、等級制度、報酬制度、評価制度等制度の骨格、③採用、人事異動、キャリア自律支援、等級の変更等の雇用管理制度、④ 人事部と各部署の権限分掌の内容、⑤労使コミュニケーション等の導入プロセスの項目に分けて公表をしています。このような具体的な事例を参照しながら実際にジョブ型人事制度を導入する際に必要な検討を進めていくことになります。
本指針に関連して、2024年4月から施行されている就業場所・従事すべき業務の変更の範囲が雇用契約締結時等に労働者に明示すべき事項として追加されたという労働条件通知に関する改正がありますし(※2)、同年4月26日には最高裁が、職種限定合意がある場合には、使用者は労働者の個別同意なしにその意に反する配置転換を命じる権限を有しないとの判断を示されたものもあります(※3)。ジョブ型人事制度の導入は、人材不足を抱える各企業において時代の変化にあわせるためにも検討をする必要があるといえます。
以上
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