内部統制と成長戦略 内部統制は経営者が主役

内部統制システム

1 連載の結論
 連載する原稿の結論から述べる。
 経営者は内部統制に関しての主役である。主役である以上、どのように内部統制に取り組むかという演技を自由に決定できる立場にある。同時に、主役である以上、旨く演じられなかった場合には、重い責任を負う立場にある。
 そのことを自覚しない経営者の下では、会社あるいは経営者は非常に危険な状態に陥る可能性がある。会社にあっては、上場廃止や株主等による損害賠償責任の追及等の問題に直面する可能性がある。 経営者にあっては、刑事責任、賠償責任、経営責任を負わされる可能性がある。
 つまり、内部統制に関して最も関心を持たなければならないのは、経営者、とくに、経営トップである。ところが、内部統制について、関心を持たない上場企業の経営者が少なくない。率直な言い方が許されるならば、経営者が裸の王様の状態になっている。そういう実態がないとは言えない。この点に警鐘を鳴らすために、この原稿を連載するものである。これが一つの結論である。
 もう一つの結論は、経営者が内部統制に関して、主役として旨い演技ができた場合には、会社は長期的な成長が可能となる点にある。内部統制の本来の目的は、会社の企業価値を向上させることにあるからであり、会社の企業価値の向上は、会社の長期的成長を保証するものだからである。
 この点に関して、現状においては、多くの経営者は、十分な認識を持っているとは言い難い。内部統制システム構築をコストの問題としか捉えていない嫌いがあるからである。そこで、会社の長期的 成長との関係でも、内部統制に意味があることを会社関係者に理解をしていただきたい。この点、この原稿は意味を持つであろう。そのように考えている。

2 二つの法律による規律
 まず、危険に陥る意味で、経営者が内部統制の主役となる主要な原因は、二つの法律による規律にある。
 一つは、会社法である。
 もう一つは、金融商品取引法である。
 会社法では、取締役会が内部統制システム構築の基本方針を決議することが要求された。しかも、大和銀行株主代表訴訟事件を初めとして、判例では、取締役に内部統制システム構築義務があること が確認されている。つまり、取締役である経営者は、会社法上では、内部統制システムの構築に関する主役とされている。
 もう一つの規律は、金融商品取引法である。金融商品取引法では、財務報告に関する内部統制システムの構築が義務とされた。ここでの主役は、経営トップがイメージされる。ただ、CFOも準主役となる可能性がある。ここでは、会社法の場合と異なり、経営者の範囲が狭いと考えてよいだろう。
 以上、二つの法律によって、内部統制に関しては、経営者が中心的役割を担うことが規律されている。しかし、規律の仕方は、一律的ではない。内部統制システムの構築のあり方に関しては、会社の業種、業態、現況等に応じて、経営者に自由な選択が許容されている。経営者は、自社にとって、最も適切な内部統制システムを構築することができる。(11回連載の予定です)

(以上、生産性新聞2007(平成19)年1月25日号より転載)

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