【最新税務裁判例】 暗号資産の交換取引等によって得られた利益が所得税法36条1項の「収入すべき金額」に該当するか否かなどが争われた事例 ~東京地方裁判所令和7年6月3日判決
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【最新税務裁判例】 暗号資産の交換取引等によって得られた利益が所得税法36条1項の「収入すべき金額」に該当するか否かなどが争われた事例 ~東京地方裁判所令和7年6月3日判決 |
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詳細情報
【最新税務裁判例】
暗号資産の交換取引等によって得られた利益が所得税法36条1項の「収入すべき金額」に該当するか否かなどが争われた事例
~東京地方裁判所令和7年6月3日判決(※1)~
鳥飼総合法律事務所
パートナー弁護士 橋本浩史
1 はじめに
暗号資産に関する税務上の取扱いについては、平成30年11月に発表された国税庁FAQ(令和7年12月最終改訂、※2)が実務の指針になっており、同FAQには暗号資産同士を交換した場合における税務上の取扱いなどが詳細に記載されています。
しかし、従前、暗号資産に関する税務上の取扱いが訴訟で争われ、裁判所の判断が示されたことはほとんどなかったと思われます。
本件は、暗号資産の交換取引等によって得られた利益が所得税法36条1項の「収入すべき金額」に該当するか否かなどが争われ、裁判所の判断が示された注目すべき事例であると考えます。
2 事案の概要
原告は、平成28年から暗号資産等の売買取引を始め、平成29年に、暗号資産同士の交換取引やICO(Initial Coin Offering、保有する暗号資産を使用して新規発行暗号資産を取得する取引)を行いました(以下「本件取引」といい、これによって得られた利益(損失を控除したもの)を「本件利益」といいます。)。本件取引には、原告が、平成29年12月、いずれも暗号資産であるAAA及びBBBについてのICOのため、その所有する暗号資産(CCC及びDDD)を事業者に送信したものが含まれていました。
原告は、平成29年分の所得税及び復興特別所得税(所得税等)の確定申告をしませんでした。
所轄税務署長は、本件利益は原告の雑所得に該当するとして、原告に対して、令和2年6月30日付けで所得税等の決定処分並びに無申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をしました(以下「本件各処分」といいます。)。
これに対し、原告は、適法な不服申立てを経て、本件各処分の取消しを求めて提訴しました。
3 争点及び原告の主張
本件の争点は、①本件利益の所得税法36条1項の「収入すべき金額」該当性、②AAA及びBBBのICOの際に生じた収益の平成29年分の「収入すべき金額」該当性などでした(これ以外にも、本件利益の帰属先など興味深い争点もあるのですが、本稿では省略します。)。
以上の争点について、原告の主張の概要は以下のとおりです(被告の主張は省略します。)。
(1)争点①について
収入すべき金額に該当するかについて、権利確定という法的基準によって全てを律すると取引の実態に合わず不都合が生じてしまうことから、実際に利得が納税者のコントロール下に入ったか否かという管理支配基準を併せて適用するのが妥当である。
原告が取得した暗号資産の中には、平成29年当時に法定通貨に換価できないものや、流動的で実体不明なものがまま存在していたのであり、暗号資産を交換しただけで一律に権利が確定したと評価することはおろか、当該利得が原告のコントロール下に入ったと評価することすらできない。
本件取引当時、AAA及びBBBを取り扱う暗号資産交換業者は存在せず、また、AAA若しくはBBB又はこれを受領する権利を、二次的に第三者に移転させる取引も行われていなかったため、そもそも市場価格というものが存在せず、AAA及びBBBの経済的価値は0又はこれに近い金額と評価すべきである。
(2)争点②について
原告は、平成29年12月に、AAA及びBBBを取得するために事業者にCCC及びDDD(いずれも原告が保有していた暗号資産)を送信したが、同年中にAAA及びBBBを受け取るための権利証に相当するものの交付を受けておらず、原告には、平成30年1月以降にAAA及びBBBが配布された。
したがって、原告は、AAA及びBBBの申込料あるいは前払としてCCC及びDDDを送信したにすぎないのであって、平成29年中に計上すべき収益は発生していない。
4 裁判所の判断
裁判所は、以下のように判示して、原告の請求を棄却しました。
(1)争点①(本件利益の所得税法36条1項の「収入すべき金額」該当性)について
裁判所は、所得税法36条は、収入の原因たる権利が確定的に発生したときは、現実の収入がなくても、その発生の時に所得の実現があったものとして、当該確定的な権利発生の時の属する年分の各種所得の金額の計算上収入金額とし又は総収入金額に算入すべきものとする、いわゆる権利確定主義を採用していると解されること(最高裁昭和49年3月8日判決)、また、同条1項は、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益であっても収入すべき金額になるものとし、同条2項は、同条1項の金銭以外の物又は権利その他の経済的な利益の額をいわゆる時価とする旨規定していることを述べた後、次のように判示しました(以下「判示1」ともいいます。)。
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このような所得税法36条の趣旨に照らすと、資産を譲渡することによって反対給付を取得する場合には、それがどのような態様であったとしても、その譲渡した資産に蓄積し内在していた値上がりによる増加益が具体化したとみられる限り、総収入金額に算入されることになるものというべきである。 |
これに続いて、裁判所は、本件利益の「収入すべき金額」該当性について、次のように判示しました(以下「判示2」ともいいます。)。
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暗号資産を市場において交換することによって他の資産を取得する場合、交換当時において等価値であるものを取得したものといえる。 また、ICOにより発行されたトークンの取引においては、通常、発行者と不特定多数の購入者との間において、新規発行されたトークンの発行価額により取引が成立するものと解されるから、発行価額をもってその市場価格であるということができる。 そして、これらの取引によって、原告は、譲渡した暗号資産に係る増加益を具体化したものといえるから、暗号資産の交換による利益(本件利益)は、所得税法36条1項の「収入すべき金額」に当たるというべきである。 |
(2)争点②(AAA及びBBBのICOの際に生じた収益の平成29年分の「収入すべき金額」該当性)について
裁判所は、次のように判示しました(以下「判示3」ともいいます。)。
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原告は、本件取引において、平成29年中に、AAA及びBBBを取得するためにその保有するCCC及びDDDを送信しており…、上記送信の時点で、原告が取得するAAA又はBBBの取引量が確定したものと認められる。そして、この時点で原告が取得することになるAAA及びBBBの価額は、原告が提供したCCC及びDDDの価額に相当するものというべきであって、原告は、現実にAAA及びBBBを取得するに至っていなくても、AAA及びBBBの対価相当額の所得の実現が確定したものというべきである。したがって、AAA及びBBBの取引による利益は、平成29年分の収入すべき金額というべきである。 |
5 検討
(1)暗号資産取引の所得区分
本件の争点について検討する前に、暗号資産取引の所得区分について触れたいと思います。
国税庁FAQは、暗号資産取引により生じた利益は、所得税法上、原則として雑所得になり、暗号資産取引に係る帳簿書類の保存があるなど一定の場合には事業所得に区分されるとしています(FAQ2-2)。本件でも、本件各処分では、本件利益は原告の雑所得に該当するとされ、この点については、原告被告双方とも争っていません。
雑所得に区分されると、総合課税の対象となるため、超過累進税率となり、最大55%の税率が適用され、有価証券等との損益通算や繰越控除が認められません。
しかし、当該利益を雑所得とする国税庁の見解の根拠は必ずしも明らかではなく、例えば、金子宏教授は、暗号資産は、譲渡所得における「資産」に含まれるとされており(※3)、同取引に係る利益は譲渡所得に該当するという意見もあったようです。
この点、自由民主党・日本維新の会が決定した「令和8年度税制改正大綱」(※4)では、暗号資産取引業(仮称)を行う者に対して「特定暗号資産」の譲渡等をした場合には、その譲渡等による譲渡所得等については、申告分離課税として20%の税率により課税され、その損失については、翌年以後3年以内の繰越控除を可能とするとされています。
なお、インターネット上の税理士(法人)等による記事では、施行時期は2028年と予想されています。
(2)争点①について
争点①では、そもそも本件利益が、⑴原告への経済的価値の流入、すなわち所得税法上の「収入」といえるか否かという点と、⑵本件利益に係る所得の年度帰属の問題、すなわち本件利益が原告の平成29年分の「収入すべき」金額といえるか否かという点の2つが問題になっているように思われます。
そして、⑴については、裁判所は「判示1」の判断を示しました。判示1は、「その譲渡した資産に蓄積し内在していた値上がりによる増加益が具体化したとみられる限り」など、あたかも譲渡所得における清算課税説(最高裁昭和43年10月31日判決・訟月14巻12号1442頁)を想起させるような言い回しであり、あまり見かけたことのない興味深い判示であると思いますが、所得概念に関するいわゆる包括的所得概念(人の担税力を増加させる利得はその源泉のいかんにかかわらず全て所得を構成するという考え方)からは自然に導き出せる判断であると思われます。
続いて、⑵については、裁判所は、「判示2」において、暗号資産同士の交換及びICO取引によって、原告は、譲渡した暗号資産に係る増加益を具体化したものといえ、本件利益は、所得税法36条1項の「収入すべき金額」に当たる、という判断を示しました。
かかる判断のうち、暗号資産同士の交換については、国税庁FAQ1-3が、その場合における所得の計算方法について記載しており、判示2は、その適法性・妥当性を裏付けたものといえると考えます。
また、国税庁FAQには、ICO取引に関する税務上の取扱いについての記載はなく、同取引においては、新規発行されたトークンの発行価額をもってその市場価格であるなどの判断は実務上も重要なものであると考えます。
(3)争点②について
国税庁FAQ2-1は、暗号資産取引による所得の総収入金額の収入すべき時期について、「原則として売却等をした暗号資産の引渡しがあった日の属する年分となります。ただし、選択により、その暗号資産の売却等に関する契約をした日の属する年分とすること もできます。」、「暗号資産取引により生じた所得の総収入金額の収入すべき時期は、その収入 の態様を踏まえ、資産の譲渡による所得の収入すべき時期に準じて判定します。」などと、その一般論を述べています。
この点、裁判所は、判示3について、ICO取引により新規に暗号資産を取得するという具体的な場合における、「収入すべき金額」該当性について、権利確定主義を根拠に、保有する暗号資産の「送信の時点」で、新規取得する暗号資産を現実に取得するに至っていたくても、それらの対価相当額の所得の実現が確定し、その時点の年分の「収入すべき金額」に該当するという判断を示しました。
ICO取引に係る税務上の取扱いについては、現行法上、また通達上も直接的な規定はなく、本判決の判断は、先例性を有し、実務上も重要なものであると考えます。
※1 TAINS Z888-2768
※2 「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」(virtual_currency_faq_03.pdf)
※3 金子宏『租税法(第24版)』265頁
※4 https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/212129_1.pdf 第一3⑵
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