非居住者に対するゲームソフトのダウンロード番号の販売の消費税法上の取り扱いについて

著者等

瀧谷 耕二

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TLOメールマガジン

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ゲームソフトのダウンロード番号等を国外向けに販売した場合の消費税法上の取り扱いについて争われた事案において、ダウンロード番号等の販売は「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるもの)」の譲渡には該当せず、したがって、免税取引にも該当しないという判断をした裁決が出されました。この裁決が、ゲームソフトのダウンロード番号等の販売について、「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるもの)」の譲渡に該当しないという判断をしてる点については妥当であったと思われるのですが、ゲームソフトのダウンロード番号は「前払式支払手段」に該当し、その販売は非課税取引に該当するのではないかとも思われますので、この裁決が、その販売が課税取引に該当することを前提としている点には疑問も残ります。

1 ゲーム会社が自らダウンロード版のゲームソフトを国外向けに販売した場合、そのような取引は、電気通信利用役務の提供に該当するものとして、当該電気通信利用役務の提供を受ける者の住所等の所在地である国外において資産の譲渡等が行われたことになり(消費税法4条3項3号)ますので、消費税の課税の対象外となりますが、ダウンロード版のゲームソフトを購入した者が、その購入によって入手したダウンロード番号等を国外向けに販売した場合、そのような取引は消費税法上どのように取り扱われることになるのでしょうか?最近、そのような問題について争われた事案の裁決(以下「本裁決」といいます。)が出されました。

本裁決の請求人は、ゲームソフトのダウンロード番号等の販売の実体はゲームソフトの販売であるとした上で、国税庁の質疑応答事例において、ソフトウェア等が消費税法施行令6条1項7号に規定する「著作権」に該当するとされていることから、その実体がゲームソフトの販売であるゲームソフトのダウンロード番号等の販売も、消費税法施行令第6条第1項第7号に規定する「著作権」の譲渡に該当し、非居住者に対する販売である場合には、消費税法7条1項5号及び消費税法施行令17条の2第6項により免税取引に該当すると主張したようですが、本裁決は、以下のように、ゲームソフトのダウンロード番号等の販売は、消費税法施行令第6条第1項第7号に規定する「著作権」の譲渡に該当せず、消費税法7条1項各号のいずれにも該当しないことから、免税取引に該当しないと判断しました。 

(イ) 上記1の(3)のハの(イ)のとおり、本件ダウンロード番号は、本件ゲーム機において本件ゲームソフト等を利用する際に必要となる番号であり、■■■■■■■■■■■において入力すると本件ゲームソフト等をダウンロードできるものであり、また、同(ロ)のとおり、本件登録用番号は、利用者の■■■■のアカウントにおいて登録することにより本件オンラインサービスを利用できるものであることからすると、本件ダウンロード番号等は、顧客が電気通信回線を介して提供される本件ゲームソフト等をダウンロードするため又は本件オンラインサービスを利用するために要する無形の資産であると認められる。

(ロ) 別紙2の本件規約の柱書のとおり、本件規約の条件は、本件ゲーム機を利用する者全てに適用されるものであるところ、別紙2の1のとおり、本ソフトウェアは使用許諾されるものであり、顧客に譲渡されるものではないなどとされ、また、別紙2の②のとおり、本システムの利用により■■■又は第三者の一切の知的財産権に関する権原又は権利が顧客に譲渡されることはなく、■■■は本件規約において顧客に対し明示的に付与する権利を除く全ての権利を留保するものとするとされていることからすれば、本件ゲームソフト等及び本件オンラインサービスの利用に関し、無形の資産である本件ダウンロード番号等を取得したとしても、■■■から顧客に対して、著作権法第17条第1項の規定に基づき著作者が著作物に対して有する権利である著作権を含む知的財産権が譲渡されるとは認められない。

(ハ) 本件各譲渡については、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、請求人が、本件■■■■サイトで取得した本件ダウンロード番号等を、本件国外事業者に譲渡するものであるところ、上記(イ)及び(ロ)のとおり、請求人が、本件ダウンロード番号等を取得するに当たり、著作権法上の著作権が譲受けされたものとは認められないことから、請求人が取得した本件ダウンロード番号等を本件国外事業者に譲渡したとしても、本件国外事業者に対し著作権法の規定に基づく著作権が譲渡されたものとは認められない。

よって、本件各譲渡は、消費税法施行令第6条第1項第7号に規定する「著作権」の譲渡には該当しない。

そして、本件ダウンロード番号等は、消費税法施行令第6条第1項第1号から第9号までに掲げる資産で所在場所を特定することができない無形の資産であるから、同項第10号に掲げる資産に該当し、また、上記1の(3)のイの(イ)のとおり、請求人の事務所の所在地は国内であることから、本件各譲渡は、国内において行われたものとなる。

したがって、本件各譲渡は、上記イで述べたことからすると、国内において行う課税資産の譲渡等であり、消費税法第7条第1項各号に掲げるもののいずれにも該当しないことから、同項の規定が適用されず、消費税は免除されない。

2 まず、ダウンロード番号等を購入しても、ゲームソフトをダウンロードすることができるだけであって、ゲームソフトの著作権を取得することができる訳ではありませんので、ダウンロード番号等の販売が「著作権」の譲渡に該当しないという結論に異論はないものと思われます。

他方で、裁決では特に判断がされていないのですが、ダウンロード番号というのは、ゲームソフトのダウンロード(複製)する権利を表彰するものであると理解できますので、そのようなダウンロード番号の販売は、著作物の利用許諾権の販売に該当し、消費税法施行令6条1項7号に規定する「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるもの)」の「その他これに準ずるもの」の譲渡に該当するのではないかということは、問題となり得たように思います。

ただ、この点については、所得税法161条1項11号ロに規定する「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるもの)」に関して、「これに準ずるもの」の「これ」とは、「著作隣接権」のことであるから、「これに準ずるもの」に著作物の利用許諾権は含まれないものと解されており(税大論叢63号「国内源泉所得のあり方について-知的財産権等の使用料に係る源泉徴収の問題を中心として-」360頁)、所得税法161条1項11号ロに規定する「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるもの)」と消費税法施行令6条1項7号に規定する「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるもの」を異なる意味であると解すべきであるとも思われませんので、消費税法施行令6条1項7号に規定する「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるもの)」の「これに準ずるもの」にも、著作物の利用許諾権は含まれないという結論になりそうです。

そうすると、本裁決が、ダウンロード番号等の販売に関して、消費税法施行令6条1項7号に規定する「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるもの)」の譲渡に該当しないという判断をしている点については、結論として妥当であったと思われるのですが、ダウンロード番号等の販売が課税資産の譲渡等に該当することを前提としている点については、疑問があります。

なぜなら、資金決済法3条1項に規定する「前払式支払手段」については、「物品切手」に類するものとして、その譲渡は非課税取引とされている(消費税法別表2第4号ハ、消費税法施行令11条)ところ、ゲームソフトのダウンロード番号というのは、資金決済法3条1項に規定する「前払式支払手段」に該当するのではないかと思われるためです。

実際、ソニーカプコンは、ゲームソフトをダウンロード番号(コード番号)が資金決済法3条1項に規定する「前払式支払手段」に該当することを前提として、資金決済法に基づく表示を行っていますので、ゲームソフトのダウンロード番号というのは、資金決済法3条1項に規定する「前払式支払手段」に該当するという理解が一般的なのではないかと思われます。

なお、ダウンロード番号等の譲渡が課税資産の譲渡等に該当することについては、請求人も争っていなかったようですが、職権探知主義が採用されている審査請求では、当事者が争っていなかったからといって、それを前提とすることができるわけではありません。

3 ゲームソフトのダウンロード番号というのは、本来的には転売することが予定されていないもののようですので、本裁決と同種又は類似の事案がそれほど多くあるとは思われませんが、仮に同種又は類似の事案があった場合には、本裁決の判断にかかわらず、非課税取引に該当するか否かの検討が必要になるものと思われます。

以上

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