ペットのための信託

詳細情報

ペットブームの中、ペットは家族の一員としての待遇を得ています。独居高齢者がペットとともに暮らしていると、ペットがいない方に比べて寿命が長くなる、という説もあるようです。
一方で、独居高齢者がペットを飼っていると、「自分に何かあったとき、この子(ペット)はどうなってしまうのだろう」という不安はつきまといます。さらに、そのときの心配から独居高齢者に対してはペットの譲渡が躊躇される場合もあるとうかがっています。

その心配を解決する仕組みとして、「ペットのための信託」を解説します。

  1. 当事者

2.信託財産

ペットのための信託では、信託する財産として、①ペットを世話するための「金銭だけ」を信託財産とする、②「金銭だけでなく、ペットも信託財産とする」の2通りが考えられます。

ここでは、金銭だけでなくペットも信託財産とすることとします。ペットを信託財産とせず、金銭だけを信託財産としても、ペットの世話の責任はもとの飼い主(委託者)に残されてしまい本質的な解決にならないからです。

3.仕組み

4.信託譲渡

信託するためには、信託財産を委託者から受託者に譲渡する(所有権移転)必要があります。また、ペットは法的には動産ですから、その占有を委託者から受託者に移す必要があります。しかし、ペットは飼い主に慣れているのであって、受託者(他人)に慣れているのではありません。そこで、法的な整理としては、飼い主(委託者)に実際の占有は残したまま、信託設定以降、飼い主(委託者)は受託者のために占有するという「占有改定」により、占有を移転することにします。ペットの所有権は移っていますから、首輪に「受託者○○の信託財産」というラベルでも貼っておけばいいでしょう。もっとも、ペットの所有権や占有がどちらにあるのかを争う人がいればの話ですが。

5.信託事務

ペットの世話をするのが信託事務となります。日常の食事や散歩などの世話から、医療など多岐に渡るでしょう。原則的に受託者がやる事務です。そのためには、飼い主(委託者)から受託者に詳細な取扱い説明書を渡す必要があるでしょう。とはいえ、これまでペットの世話をしてこなかった受託者が委託者に代わってその世話がスムースできるとは思えません。そこで、法的技術としては、受託者から飼い主(委託者)に信託事務の委任をすることになります。

ここまで見ると、「ペットのための信託」といっても、ペットは依然としてもとの飼い主のもとにある(だから引続き可愛がれる)し、その世話ももとの飼い主がすることになります。実質的に何も変わっていない。これのどこに意味があるのかということになります。

6.2次受益者兼2次信託事務受託者

ペットのための信託で一番重要な要素です。

飼い主の心配は、自分が死亡したり判断能力が衰えて、ペットの世話ができなくなったときにペットがどうなるかです。

「ペットのための信託」では、飼い主が亡くなったときはもちろん、飼い主が判断能力を衰えてペットの世話ができなくなった、と判断するのは、信託事務をする受託者の責任になります。受託者がそう判断したときは、受益者兼信託事務の受任者をもとの飼い主から、2次受益者兼2次信託事務の受任先として、ペットを看取ってくれる施設、または約束していたペット仲間に変更します。

ペットを信託財産とするペットのための信託の意義はまさにここにあります。受託者は実質的にはペットの世話をしません。世話はもとの飼い主、その後は2次受益者兼2次信託事務の受任者がします。しかし、飼い主がペットの世話ができなくなったという判断をし、必要な変更手続きをするのは、受託者の責任になります。

7.事前契約

みてきたように、飼い主(委託者)が元気なあいだは、これまでと同じ状態が続きます。いざ、飼い主がペットの世話ができなくなったときに、「ペットのための信託」の意義が現れます。
ここで、その際にあわてて2次受益者兼2次信託事務の受任先を探すのはもとの飼い主(委託者)の希望と異なるでしょう。したがって、信託設定の際には、2次受益者兼2次信託事務の受任先を決定しておく必要があるでしょう。ペット仲間個人なら口頭の約束でもいいかもしれません。ペットを看取ってくれる施設であれば、それが非営利法人であっても契約をするほうが安全です。その契約では、前払い金、月々の報酬、それ以外の必要な経費、ペットの看取り(埋葬)、ペットが亡くなって信託を終了するときに金銭の残額があればそれを寄付することなどを決めることになるでしょう。

以上

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