ポイント取引に関する消費税の取扱い

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瀧谷 耕二

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インターネット市場の拡大に合わせてポイントの市場も急速に拡大してきていますが、そのようなポイントの取引に関する消費税の取扱いについては、通達や質疑応答事例もなく、必ずしも明確ではありません。そのような中で、ポイント取引に関する消費税の取扱いが争われた事案の判決/裁決が立て続けに出されました。いずれの判決/裁決においても、ポイントプログラム運営企業が第三者の販売促進等のために発行したポイントの原資として受領した金員が課税資産の譲渡等の対価に該当するかどうかが争われ、課税資産の譲渡等の対価に該当しないという判断がなされています。

1 ポイントとは

商品の購入金額等に応じて、将来の代金決済への利用等に使用することができる点数を顧客に付与するサービスをポイントプログラム(ポイントサービス)といい、そのようなサービスにより付与される点数をポイント(企業ポイント)といいます。ポイントを顧客に付与することによって、顧客の囲い込みをすることや顧客の購入意欲を誘発することが可能であると考えられており、マーケティング及び販売促進のツールとして広く用いられています。

ポイントには、家電量販店などが発行する「自社発行ポイント」も少なくありませんが、最近は、Tポイント、楽天ポイント、Ponta、dポイントなど、資本関係を問わず様々な企業で利用することが可能な「共通ポイント」の利用が拡大をしています。

2 大阪高裁令和3年9月29日判決・令和2年(行コ)第10号

ポイントプログラム運営企業(控訴人)が、会員の行ったポイント交換に伴い提携ポイントのポイントプログラム運営企業(提携法人)から受領した金員(本件金員)について、課税資産の譲渡等の対価に該当するかが争われた事案に関する裁判例です。原判決(大阪地裁令和元年12月13日判決)では、本件金員は、提携法人に対し、ポイント交換を行った会員に本件ポイントを付与するなどの役務提供の反対給付として支払われたものであるから、課税資産の譲渡等の対価に該当すると判断されていたのですが、この裁判例は、以下のように、本件金員は、本件提携契約に基づいて付与したポイントの還元を行うための原資であって、本件提携契約に基づき提携法人に対して行う役務提供の反対給付としての性質を有するとみるのは困難であるから、課税資産の譲渡等の対価には該当しないという判断をしました。

これらの事実からすれば、本件各提携契約に基づく提携法人の控訴人に対する本件金員の支払は、ポイント交換に係る提携ポイントを発行した者としてその利用に係る経済的負担を負うべき立場にある提携法人が、本件ポイント還元を行う控訴人のために、その原資を提供する行為にほかならないというべきであり、本件金員は、控訴人が本件各提携契約に基づいて双方会員に付与した本件ポイントにつき本件ポイント還元を行うための原資としての性格を有するものというべきであって、本件金員に本件ポイント還元に係る原資以外の性格ないし要素を見いだすことはできない。そして、本件各提携契約に基づくポイント交換に当たり、提携法人と控訴人との間で本件金員の支払以外に交換手数料その他の金銭の授受等も一切されていないというのである。

そうであるとすれば、本件各提携契約に基づく提携法人と控訴人との間のポイント交換は、無償取引というべきであり、控訴人は、本件各提携契約に基づき、提携法人に対し、本件ポイントへの交換の意思表示をするなどした双方会員に対して控訴人の企業ポイントプログラムの対象に組み込むことを目的として本件ポイントを付与するという役務を無償で提供し、提携法人は控訴人の企業ポイントプログラムによる本件ポイント還元に係る原資の提供として本件金員を控訴人に支払うものであって、本件金員が控訴人が本件各提携契約に基づき提携法人に対して行う上記役務の提供の反対給付としての性質を有するとみるのは困難というべきである。

3 令和3年10月7日裁決・東裁(諸)令3第29号

ポイントプログラム参画企業(請求人)が、ポイントプログラム運営企業(A社)から会員に付与されたポイントの原資負担としてポイントプログラム運営企業(A社)に支払った金員(本件ポイント負担金)について、課税仕入れに係る支払対価の額に該当するかが争われた事案に関する裁決例です。この裁決例では、以下のように、個別具体的な課税資産の譲渡等が行われたことを条件として、本件ポイント負担金が支払われたといい得る対応関係があるとは認められないから、本件ポイント負担金は課税仕入れに係る支払対価の額には該当しないと判断されました。これは、A社の立場からすると、本件ポイント負担金が資産の譲渡等の対価に該当するものではないと判断されたことを意味することになります。

本件ポイント負担金として支払った金員が、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額に該当するか否かは、上記(1)のとおり、A社(引用者注:ポイントプラグラム運営企業)から請求人に対して個別具体的な課税資産の譲渡等が行われたことを条件として、請求人からA社に対して本件ポイント負担金が支払われたといい得る対応関係があるか否かで決せられることになる。

この点を見てみると、本件ポイント負担金は、上記1の(3)のロのとおり、本件利用約款に基づき、本件会員が■■■■■■■を通じて請求人が提供する付与対象サービスを予約及び利用した場合に、A社が本件会員に対し付与した本件ポイントについて、1ポイント当たり■■の割合で、その原資を負担するために請求人からA社に対して支払われたものであると認められる。

また、上記(2)のイのA社の経理処理等によれば、本件ポイント負担金は、A社において消費税法上の課税資産の譲渡等の対価の額とされておらず、A社が本件ポイントプログラムの利用の対価として請求人から金銭を授受した事実は認められない。加えて、同ロのとおり、本件利用約款及び■■■■■■■■■■■■の記載事項からも、本件ポイント負担金が、掲載サービス又は本件ポイントプログラムの利用に係る対価、あるいはその他の課税資産の譲渡等の対価であるとの事実も認められない。

そして、このことは、上記1の(3)のニのA社が請求人宛に発行した「自動引落のご明細」と題する書面に、請求金額に係る「消費税等」欄に零円と表記されていること及び「引落額」欄の下部に消費税等は含まれていない旨の表記がされていることとも整合するものである。したがって本件ポイント負担金として支払った金員は、A社から請求人に対して個別具体的な課税資産の譲渡等が行われたことを条件として支払われたといい得る対応関係があるとは認められないから、消費税法第2条第1項第12号に規定する課税仕入れに係る支払対価の額には該当しない。

4 2つの裁判例/裁決例の関係

2の裁判例の事案と3の裁決例の事案は、いずれも、ポイントプログラム運営企業が第三者の販売促進等のために会員にポイントを発行し、そのポイントの原資として当該第三者から金員を受領した場合において、当該金員が課税資産の譲渡等の対価に該当するかどうかが問題となった事案という点において共通しています。

そして、いずれの事案においても、結論としては課税資産の譲渡等の対価に該当しないという判断がされましたので、ポイントプログラム運営企業が第三者の販売促進等のために会員に発行したポイントの原資として当該第三者から受領した金員については、基本的には、課税資産の譲渡等の対価には該当しないものと理解すべきことになると考えられます。

ただ、3の裁決例では、その判断にあたってポイントプログラムの利用規約の内容が重視されているようですし、2の裁判例の原判決が異なる判断をしたのは、提携契約の内容から、本件金員がポイント還元を行うための原資としての性格を有することが明確ではなかったからであるともいえますので、思わぬ課税を受けるリスクを低減させるためには、ポイント取引に係る契約内容が、上記のような理解と整合的なものとなるようにすることも必要であると思われます。

以上

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