信託型ストックオプションの税務上の取扱い~国税がこれまでの一般的な理解を覆す見解を明らかに~

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瀧谷 耕二

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令和5年2月20日に行われた衆議院の予算員会第三分科会において、国税庁次長から、信託型ストックオプションの税務上の取扱いについて、国税庁としては、新株予約権を行使した時の給与所得に該当する旨の見解を採っていることが明らかにされました。信託型ストックオプションについては、これまで、税制適格ストックオプションと同じように、新株予約権を行使した時に課税されるのではなく、新株予約権の行使により取得した株式を譲渡した時に株式の譲渡所得として分離課税されるという理解が一般的でしたので、国税庁として、そのようなこれまでの一般的な理解を覆す見解と採ることが明らかにされたことになります。具体的には本年の4月以降に国税庁から見解が公表されることが予定されているようですので、これまでに信託型ストックオプションを組成した企業においては、その見解の公表を受けて、早急に対応策の検討が必要になることが想定されます。

1 信託型ストックオプションとは

信託型ストックオプションとは、オーナー経営者等から資金の拠出を受けた「受益者の存しない信託」(法人課税信託)の受託者が、当該資金により発行会社の新株予約権をその時の公正な評価額(時価)で取得した上で、後に発行会社の指定により受益者となった役職員等に当該新株予約権を交付するスキームです。

このような信託型ストックオプションには、通常のストックオプションとの比較において、交付対象者や交付数を発行後に決定することができるため、実際の貢献度に応じて新株予約権を交付することや発行後に採用する人材にも同じ条件の新株予約権を交付することができるというメリットがあるといわれています。

また、下記2のとおり、これまでは、税制適格ストックオプションと同じように、新株予約権を行使した時に課税されるのではなく、新株予約権の行使により取得した株式を譲渡した時に株式の譲渡所得として分離課税されるという理解が一般的でしたので、税務上のメリットもあるといわれていました。

2 信託型ストックオプションの税務上の取扱いに関するこれまでの一般的な理解 

 信託型ストックオプションの税務上の取扱いについては、これまで、以下のように、新株予約権の交付時及び行使時には課税されず、新株予約権の行使により取得した株式を譲渡した時に株式の譲渡所得として分離課税されるという理解が一般的でした 

①居住者が法人課税信託の受益者となった場合、受託者から信託財産に属する資産及び負債を帳簿価額により引継ぎを受けたものとされる(所得税法67条の3第1項)が、その引継ぎにより生じる収益の額は、所得金額の計算上、総収入金額に算入されないこととされている(所得税法67条の3第2項)ため、受託者が受益者となった役職員等に対して新株予約権を交付した時には課税されない。

②「発行法人から与えられた」新株予約権のうち、「当該新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件若しくは金額であることとされるもの又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるもの」を行使した場合には、その行使をした時に課税することとされている(所得税法施行令84条3項2号)が、法人課税信託の受託者がその時の公正な評価額(時価)で取得した上で役職員等に交付する信託型ストックオプションの新株予約権は、「発行法人から与えられた」ものにも「当該新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件若しくは金額であることとされるもの又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるもの」にも該当しないため、役職員等が新株予約権を行使した時にも課税されない。

3 国税庁の見解

(1) 令和5年2月20日に行われた衆議院の予算員会第三分科会において、土田慎議員が信託型ストックオプションの税務上の取扱いについて質問したところ、国税庁次長から、以下のように、国税庁としては、新株予約権を行使した時の給与所得に該当するものと考えている旨の回答がなされました。

「発行法人が役員等に付与するストックオプションにつきましては、一般的な課税関係を申し上げますと、当該ストックオプションが税制適格ストックオプションに該当する場合、それから役務提供の対価に該当しない場合、これらの場合を除きまして、ストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得と取り扱っているところでございます。委員ご指摘の信託型ストックオプションでございますが、信託にストックオプションを付与していることから、役員等の給与所得として課税されないのではないかとの見解があることは承知しておりますが、その信託型ストックオプションが役員等への付与を目的としたものである場合には、実質的に役員等に付与したと認められると考えられますことから、国税庁といたしましては、ストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得に該当するものと考えているところでございます。」

(2) なお、上記の回答については、その前提となる質問をした土田慎議員が、信託型ストックオプションについて、「資金を会社側が信託会社に信託し…」と説明していたことから、オーナー経営者等が資金を拠出する一般的な信託型ストックオプションを想定したものではなく、発行会社が資金を拠出した場合を想定したものではないかとの指摘もあります。

しかし、実際の土田慎議員の質問を聞く限り、そのような場合に限定した質問というよりは、正確な説明がなされなかっただけであるように理解されますし、国税庁次長の上記の回答も、そのような場合に限定したものではないと理解する方が自然ですので、国税庁として、オーナー経営者等が資金を拠出する一般的な信託型ストックオプションについても、新株予約権を行使した時に課税すべきであるという見解を採っている可能性が高いものと考えられます。

4 実務への影響

税務専門紙の取材によれば、国税庁は、本年の4月以降に、ストックオプションに関する税制改正に伴う通達の改正を行うタイミングで、信託型ストックオプションの税務上の取扱いについての見解を公表することを検討しているとのことです(T&AmasterNo.965「信託型SOスキーム権利行使時課税 従来の理解を覆すことに」)。

そのため、既に組成済みの信託型ストックオプションも対象となるのか、過去に行使された新株予約権についても遡及して行使時に課税すべきということになるのかといった点については、その見解の公表を待つ必要がありますが、これまで国税庁として行使時に課税しなくてよいという見解を公式に明らかにしていた訳ではなかったことからすると、少なくとも、既に組成済みの信託型ストックオプションについては、新たに明らかにされる見解の対象になる可能性が高いものと考えられますので、既に信託型ストックオプションを組成してしまっている企業においては、早急に対応策の検討が必要になることが想定されます。

以上

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