不動産取引に必須の印紙税の知識(23)文書の表題

著者等

山田 重則

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月刊 不動産フォーラム21 連載

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印紙税相談

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不動産取引に必須の印紙税の知識(23)
―文書の表題―

1 今回のテーマ
今回は、「文書の表題」について取り上げます。文書には、通常、「〇〇書」といった表題がつけられることが多いといえますが、このような文書の表題だけから当該文書の印紙の要否を判断することはできません。 

2 「文書の表題」からは意外な契約書
不動産の譲渡に関する契約書は第1号文書として、請負に関する契約書は第2号文書としてそれぞれ印紙が必要になります。このようにいくつかの課税文書については、「契約書」、すなわち、契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される文書にあたることが必要になります。そして、この「契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される文書」にあたるかどうかは、文書の内容から判断します。

 事例1

打合せ議事録

・甲が乙に発注する製品Aの単価については、1個500円とすることで決まった。

・次回の打ち合わせでは、製品Aの仕様について協議を進める。 

株式会社甲 担当者㊞

株式会社乙 担当者㊞

  結論としては、この打ち合わせ議事録は、請負に関する契約書(第2号文書)にあたります。記載金額はありませんので、印紙代は200円となります。

 この文書の表題だけをみると、「打合せ議事録」となっており、「〇〇契約書」とはなっていません。しかし、この文書の内容を確認すると、甲と乙との間で、乙が甲から製作を請け負った製品Aの単価を1個500円とすることで合意に至っています。したがって、この文書は、甲と乙という請負契約の契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される文書にあたりますので、「契約書」となります。 

事例2

設計図

設計者:甲 株式会社 担当A スクリーンショット (24)

乙 株式会社 印 

  契約書は「文字」だけで書かれているとは限りません。「図」で表現されていることもあります。例えば、建築や製品加工の現場では、対象物の仕様が設計図や仕様書として「図」で表現されていることがあります。上記の事例では、単に対象物が「図」で記載されているにすぎませんが、例えば、甲株式会社と乙株式会社との間で、別途、請負契約が交わされている場合には、この設計図はその請負契約の対象を補充する契約書として、請負に関する契約書(第2号文書)に該当します。記載金額はありませんので、印紙代は200円となります。

 また、甲株式会社と乙株式会社との間で、別途、継続的な請負に関する基本契約書が交わされており、この設計図の製品について、甲株式会社と乙株式会社との間で個別に複数回の発注と受注が繰り返される場合には、この設計図は継続的な請負に関する基本契約の内容を補充する文書として、第7号文書にあたります。この場合、印紙代は4000円となります。

「契約書」というと、どうしても「文字」で書かれているイメージが強いのですが、印紙税法は、「契約書」を「文字」で書かれている文書に限定しているわけではありません。ある文書が契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される文書にあたる限り、「文字」であるか「図」であるかは関係しません。したがって、文書の表題が「設計図」となっている文書であっても、「契約書」として印紙を貼らなければならない場合があります。

 事例3

念  書

平成30年9月19日 

 私、甲は、平成30年3月19日付消費貸借契約書に基づき貴社より借り入れた金300万円に対しては、利息として年2分の割合による金員をお支払致します。

 甲 ㊞

 

  まず、この文書には甲の意思しか記載されておらず、貸主の意思は記載されていません。そのため、この点からすると、契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される文書にあたらないようにも思えます。しかし、印紙税実務上は、自らの債務を承認する記載をして相手方に交付する文書については「契約書」として扱われることになります。この文書では、甲という一方当事者が利息という債務を支払う旨の記載をして貸主に交付していますので、「契約書」として扱われることになります。

 そして、一方当事者が他方当事者に交付する文書の表題が「〇〇契約書」となっていることはむしろ稀です。「念書」、「請書」、「承諾書」、「覚書」、「約定書」、「証書」といった文書の表題になっていることが多いと思われます。

 このように、一方当事者が他方当事者に交付する文書についても、文書の内容から「契約書」にあたるかどうかを判断することになります。一方当事者の作成するどのような文書が「契約書」にあたるのかについては、本連載で過去に掲載した記事を参考になさってください(2018年10月号、本連載(13)参照)。

 3 「文書の表題」からは意外な金銭の受取書
 文書の表題だけで判断することができないのは、金銭又は有価証券の受取書(第17号文書)でも同様です。文書の表題が「領収書」や「レシート」となっていれば、これが金銭又は有価証券の受取書にあたることは容易に気づくことができると思いますが、以下の文書についてはいかがでしょうか。

 事例4

お礼状 

株式会社B 御中 

平素より弊社のサービスをご利用いただきまして、ありがとうございます。
 この度は、令和元年5月分の代金をお振込みいただきまして、ありがとうございました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。             

令和元年6月24日

株式会社A 代表取締役X ㊞

  結論としてはこのお礼状は、売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書として第17号の1文書にあたります。記載金額はありませんので、印紙代は200円です。

 金銭又は有価証券の受取書においても、先にみた契約書と同様に、文書の内容から判断をします。そうすると、この文書には、「令和元年5月分の代金をお振込みいただきまして、ありがとうございました。」との記載があります。「お振込みいただきまして」という文言からは、株式会社Aが株式会社Bから金銭を受領したことを読み取ることができます。したがって、この文書は金銭の受取書にあたります。

 また、「代金」とあり、何らかの「対価」であることも読み取れますので、この金銭は「売上代金」にあたります。そのため、この文書は、売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書にあたるといえます。

 このように「お礼状」という文書の表題だけからすると、この文書が金銭又は有価証券の受取書にあたるという結論はおよそ想定できないといえます。金銭又は有価証券の受取書の実例としては、「領収書」や「レシート」といった文書が多いため、それ以外の表題の文書について見落としがちですが、ここでも文書の内容から判断するという基本を押さえていただきたいと思います。

 4 まとめ
 「契約書や領収書には印紙を貼らなければならない」と言われることが多いと思います。これ自体は何ら誤りではありませんが、この意識が強すぎると、「〇〇契約書」や「領収書」といった文書以外の文書について、印紙の張り漏れが起きてしまいます。印紙税の判定を行う際には、その文書がどのような内容を定めているかという視点で文書を確認することが重要といえるでしょう。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則

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