リスクコンシェルジュ~事業承継リスク 第2回 親族内承継総論

親族内承継総論

1 事業承継の分類と特殊性

(1)親族内承継と親族外承継

   一口に事業承継といっても、いくつかタイプがあり、それぞれのタイプによって問題となりうる場面、注意しなければならない点等が変わってきます。

   事業承継の問題は、後継者が親族内にいるかどうかによって、大きく親族内承継と親族外承継の2つに分類されます。親族内承継は後継者が相続人のうちにいる場合をいい、親族外承継は他人である非相続人が後継者となる場合をいいます。親族外承継の場合、会社の資産や株式等の経営権を経営者から後継者に委譲するのは、通常、有償の「取引」として扱われます。ですので、このような場面では、会社法等の取引に関する法的規制が問題となります。これに対し、親族内承継の場合には、取引的な側面に加えて、相続が問題となります。具体的には、民法第5編「相続」の規定が適用され、この点についても留意して事業承継を行うことが必要となります。

   親族が後継者となるケースが年々減っているとはいえ、いまだにその割合は少なくありません(詳しくは、前回記事の資料「後継者教育に関する実態調査」をご参照ください。)。そこで、以下は、親族内承継に焦点をあてて見ていきます。

(2)親族内承継のメリット、デメリット

   親族内承継のメリットとして、まず、従業員や取引先などからの同意を得やすいことがあげられます。事業承継をスムーズに進めるためには、関係者の理解を得ることが重要であるところ、経営者の親族が後継者となるのは、ある意味自然なことといえますので、その点でメリットだといえるでしょう。また、後継者を外から探してくる場合と比べて、早くから指名することができますので、経営者の教育に時間をかけることができ、経営理念やノウハウを引き継がせることができる点もメリットといえます。さらに、会社の自社株等を買取り等の取引行為ではなく、相続により移転できるため、会社の所有と経営が分離することを避けることもできます。

   一方、デメリットとしては、親族内に経営の資質と意欲を併せ持つ後継者がいるとは限らないことが挙げられます。大王製紙の事件で、創業者一族の子息が会社から大金を不正に引っ張り出し、そのお金をカジノで使い込んだのは記憶に新しいところかと思います。また、相続人が複数いる場合に後継者の決定をめぐって争いが生じること等が考えられます。

2 問題となりうるケース~事業承継問題の盲点 

   親族内承継の場合に問題が生じうる場面として、相続人間で問題が生じうる場合(ヨコの関係)と経営者・後継者間で問題が生じる場合(タテの関係)があります。

   このうち、相続人間の場合は、会社の経営権という1つのものを巡って、複数人の利害が衝突するため、どのようにトラブルが起きうるか想像がつきやすいかと思います。一方、タテの関係については、上記のような明確な利害衝突がないため、問題が見過ごされがちです。

   例えば、後継者として経営の引き継ぎを少しずつ行っていたところ、経営方針にずれが生じて経営者と後継者の関係が悪化する場合や会社とは関係のない理由によって親子間の関係に亀裂が入ることがあります。

   前述のように、タテの関係の問題は、見過ごされがちなために後になってからトラブルとなることがあります。このような事後的なトラブルを解決するため、例えば遺言無効の訴え等で弁護士が必要となることがあります。これに加え、親族内で他の後継者を探したり、M&Aという他の道を探る方法による対策も考えられます。

3 最後に

   以上のように、事業承継には様々なパターンがありますが、それぞれについて潜んでいる問題を可能な限り考えてみて、対策を練ることが重要となります。

鳥飼総合法律事務所

※ 本記事の内容は、2012年9月現在の法令等に基づいています。

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