会社法QA(平成26年改正後版)第1回 内部統制システム 

【テーマ】 内部統制システム
【解説】
1 会社法はすべての大会社に内部統制システムの構築方針の決定を義務付けている
 資本金5億円以上の会社、または負債が200億円以上の会社を大会社といいます(会社法2条6号)。大会社のような大規模な会社の活動は、社会に大きな影響を与えますから、適正なガバナンスの確保が特に重要です。ところが、大規模な会社では、各取締役が会社のすべての活動を逐一把握することは現実的には不可能であるため、組織として適正なガバナンスを確保できる体制を整えることが必要になります。
 そこで、会社法では、すべての大会社に対し、取締役の職務の執行が法令や定款に適合するなど、会社の業務及びその子会社からなる企業集団の業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)の構築の基本方針を決定することを明文で義務付けています(会社法362条5項)。
 平成26年の会社法改正により、従来、会社法施行規則において定められていた株式会社及びその子会社からなる企業集団の業務の適正を確保するための体制の整備を会社法で規定することになりました。これは、企業集団による経営が発展し、親会社及びその株主にとって、子会社の経営が重要性を増していることから、当該会社の株主保護のため、その会社と子会社からなる企業集団の内部統制の整備を法律化することで、これらに対するガバナンスを強化するためと考えられています。
2 内部統制システムの内容は、会社法施行規則100条では、
①取締役の職務の執行に係る情報の保存・管理に関する体制
②損失の危険の管理に関する規程その他の体制
③取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
④使用人の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制
⑤企業集団における業務の適正を確保するための体制
⑥取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制
⑦監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
⑧補助使用人の当該会社の取締役からの独立性に関する事項
⑨監査役の補助使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項
⑩監査役への報告に関する体制
⑪報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制
⑫監査役の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項
⑬その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制
を整備する必要があるとしています。
 平成26年の会社法等の改正により、事業報告において、内部統制システムの運用状況について報告する義務が課せられました(会社法施行規則118条2号)。これは、監査役の監査の実効性を高め、内部統制システムの構築を実効的なものとするためです。

【質問】
 当社は、精密機械の製造会社です。約1,000名の社員がおり、3つの事業部に分かれて執務しています。また、当社の製品を販売するため、当社100%出資による子会社も有しています。当社の資本金は3億円であり、負債額は約100億円です。当社の場合、
[1] 大会社ではないので、内部統制システム構築義務はないと考えてよいですか
[2] 子会社が不祥事を起こしたとしても、親会社とは法人格が異なる以上、親会社の取締役が責任を負うことはないと考えてよいですか
【選択肢】
[1] 内部統制システム構築義務もないし、親会社の取締役が子会社の不祥事の責任を負うこともない。
[2] 内部統制システム構築義務はないが、親会社の取締役が子会社の不祥事の責任を負うことはある。
[3] 内部統制システム構築義務もあるし、親会社の取締役が子会社の不祥事の責任を負うこともある。
【正解】 [3]
【解説】
1 「大会社」でなければ内部統制システム構築義務はないのか?
 確かに、会社法362条5項が明文で内部統制システムの構築を義務づけているのは、「大会社」である取締役会設置会社です。
 大会社は、資本金5億円以上の会社、または負債が200億円以上の会社ですから(会社法2条6号)、【質問】の会社は「大会社」には該当しません。そのため、会社法362条5項が適用されることはなく、内部統制システム構築義務はないようにみえます。
 しかし、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社の場合には、大会社でなくても、明文で取締役会に内部統制システムの構築を義務付けており(会社法416条2項、399条の13第1項1号ロハ)、会社法が、「大会社でなければ内部統制システム構築義務はない」と単純に考えているわけでないことは明らかです。
2 取締役に内部統制システム構築義務が課せられる理由
  内部統制システムは、会社法が立法される以前から、大規模会社における取締役の善管注意義務の内容として、その構築の必要性が説かれているものです。大和銀行事件判決(大阪地判平成12年9月20日判例時報1721号3頁、判例タイムズ1047号86頁)において採用され、取締役に莫大な額の損害賠償義務を認めたことで大きな話題となりました。
「大規模会社」とは、明確な定義があるわけではありませんが、取締役の善管注意義務との関係でいえば、「取締役が1人1人の従業員の活動を監督できない会社」と言ってよいでしょう。
 たとえば、企業不祥事が発生した場合、直接の原因を作った従業員がいるはずですが、「取締役が末端の従業員の活動などいちいち見ていられないから、取締役には責任がない」と言えないことは誰の目にも明らかです。この場合の取締役の責任とは、善管注意義務違反を意味します。「取締役が末端の従業員の活動などいちいち見ていられないのであれば、いちいち見ていなくても法令・定款に適合した活動ができるような体制(内部統制システム)を構築すべきであり、それが取締役の善管注意義務の内容だ。」という論理です。
3 【質問】の会社の場合
 【質問】の会社は、資本金は3億円であり、負債額は約100億円にとどまりますが、約1,000名の社員がおり、3つの事業部に分かれて執務しているわけですから、取締役が1人1人の従業員の活動を監督できるはずがありません。「大会社」でないとしても「大規模会社」であることは確実です。
 したがって、取締役には善管注意義務の内容として、内部統制システム構築義務が課せられていると考えられます。
 

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