鳥飼総合法律事務所

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改正犯収法特集 #02 「ついこの前、暴排条例とか始まったばかりなのに?」

 
投稿者
鳥飼総合法律事務所
取扱分野
コンプライアンス
 

 

1 組織犯罪の抑止といえば、、、

犯収法の究極の目的は組織犯罪の抑止だということですが、組織犯罪対策といえば、最近は2011年に全国で施行されるようになった暴排条例への対応が何かと話題になっているところです。ここ1~2年、暴排条例への対応で結構面倒な思いをしたという会社や事業者の方も少なくないかと思います。
暴排条例と犯収法はどのような関係にあるのでしょうか?
暴排条例で暴力団対応をしっかりやっているから、自分たちはもう関係ないということになるのでしょうか?
今回は、このあたりについて見ていきましょう。

 

2 そもそも暴排条例って何?(暴対法とはどう違うの?)

 

(1)背景と暴対法

ここ数年、日本国内では、いわゆる反社会的勢力への対応についての関心が、様々な分野で高まってきています。その典型的な動きが、2011年10月に東京都と沖縄県での施行により全国の都道府県で施行されることとなった暴排条例(暴力団排除条例)です。
日本での暴力団を取り締まる法律としては、いわゆる暴対法(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)が1992年に施行されています。
暴対法は、暴力団員などによる暴力的要求行為を禁ずることが主な内容です。暴対法のもとでは、警察が暴対法を活用して暴力団を取り締まることが主に期待されており、「警察 vs 暴力団」という構図で暴力団排除活動が続けられてきました。
1992年の施行以降、暴対法は一定の成果を上げ、全国の暴力団員や暴力団事務所の数などがある程度減少してきました。しかし、その一方で、暴対法による規制強化などを受けて暴力団の活動は法律に触れぬように巧妙化され、暴力団そのものが表に出ず、いわゆるフロント企業を活用するなどして一般企業活動や証券市場などに接近し、企業の経済取引などの中から資金を獲得する活動を活発化させるようになってきました。そして、暴力団の正式な構成員の人数は減少傾向にあるものの、準構成員の人数は増加傾向にあり、準構成員やいわゆる共生者などの暴力団関係者と一体となって、暴力団が引き続きその力を堅持しているという状況になっています。

 

(2)暴排条例の登場

そのような中で出てきた新しい流れが、暴排条例です。
暴排条例の内容は、各都道府県ごとに若干の違いがありますが、大まかな構成はほぼ共通しています。その中で最も特徴的といえるのが、一般の事業者が暴力団関係者に対して利益供与を行うことを禁止する規定です(「利益供与の禁止」)。
「利益供与」というと、一般的には、相手に対して一方的に利益を与えるという意味かと思われがちですが、暴排条例ではそうではないので注意が必要です。取引相手である暴力団関係者から通常どおりの代金や対価などを支払ってもらっていても、暴力団関係者に対して提供されるサービスなどが、暴力団等の組織の運営や活動に資するものであれば、条例に言う「利益供与の禁止」に当たることがあるのです。
事業者がこうした利益供与の禁止に違反した場合には、利益供与を停止するよう勧告がなされたり、さらには事業者名が公表されるなどの制裁があります。悪質な場合には、罰則(懲役ないし罰金)の適用もあります。コンプライアンス意識が高まってきた昨今では、事業者名が公表されるだけでも、銀行取引が難しくなるなど、企業にとって致命的なダメージを受ける可能性が十分にあることになります。
暴排条例は、このような規定の導入により、一般社会から暴力団に対して、金銭的な収入や、暴力団の活動・運営に必要なサービスや物品などが供給される機会を減らすことによって、暴力団を社会全体から締め出していこうとしているのです。つまり、暴排条例では、「社会全体vs 暴力団」という構図での暴力団排除活動が期待されていると言えます。

 

(3)政府指針

なお、こうした社会全体での暴力団排除という流れは、2007年6月に政府から公表された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に端を発しています。
この政府指針では、企業に対して暴力団などの反社会的勢力との「取引を含む一切の関係遮断」を求めたのです。
この指針を受けて、金融機関等の大きな業界団体では取引契約の中に暴排条項を盛り込むなどの対策を始めることとなったのですが、こうした流れを大企業だけでなく社会全体に押し広げるために暴排条例が施行されたとみることができます。
(因みに、2007年といえば、犯収法が最初に成立した年でもありますね。)

 

3 暴排条例と犯収法の関係

(1)共通点(=目的)

暴排条例は、既に見たように、暴力団等の反社会的勢力を社会から締め出すことにより、その組織の活動を困難にさせ、組織を崩壊させることによって、暴力団等による組織的犯罪を撲滅させようという究極の目的を持っているといえます。
他方で、犯収法は、犯罪収益やテロ資金などの移動・洗浄に着目して、犯罪やテロ行為の摘発を容易にし、犯罪収益等が犯罪組織によって再利用されることを阻止することなどを通じて、組織犯罪やテロ行為を撲滅していこうという究極の目的を持っているといえます。
したがって、暴排条例と犯収法は、その究極の目的はかなりの部分で重なっているところがあるといえるでしょう。
しかし、暴排条例と犯収法とでは、その究極の目的を達成していくためのアプローチが、次にみるように大きく異なっています。

 

(2)相違点(=アプローチ)

暴排条例は、暴力団等の反社会的勢力を社会から締め出すことによって、その目的を達成しようとします。このため、暴排条例に基づく対応を求められるのは、条例の施行地内のあらゆる事業者(個人を含む)全てとされています。そして、それらの事業者は、自らが顧客であろうが、相手方が顧客であろうが、そのあらゆる取引に関して、その取引が暴力団等の組織の活動や運営に資するものである場合には、その相手方が暴力団関係者である場合にはこれを拒絶することが求められています。いわば、社会全体に網をかけて、その中から反社会的勢力を締めだし、その中には一切の侵入を許さないという体制作りを目指しているともいえるでしょう。

他方で、犯収法のアプローチはどうでしょうか。
犯収法では、いわゆるリスクベース・アプローチ(Risk based approach)を基本としているように考えられます。リスクベース・アプローチとは様々な場面で使われる概念ですが、簡単に言えば、危なそうなところはどこかを特定し、まずはその危なそうなところから対応策を講じていく、というようなアプローチです。
犯収法では、まずこの法律に従って本人確認や疑わしい取引の届け出などを義務付けられる主体が、特定の事業を営む者(特定事業者)に限定されています。そして、これらの特定事業者は、自らが関わるあらゆる取引について本人確認などを義務付けられるのではなく、それぞれの事業者ごとに定められた特定の業務(特定業務)に関する顧客についてのみ、本人確認などを義務付けられています。
これは、犯罪収益やテロ資金の移動・洗浄に利用される確率の高い事業を特定し、それらの特別な事業を営む特別な事業者のみに特別な義務を課すことによって、全体としての目的を効率的に達成していこうとするものであるといえます。

 

4 クルマの両輪

(1)総論(一体的な運用で社会的責任を効果的に果たす)

以上に見たとおり、暴排条例と犯収法とでは、そのアプローチが大きく異なっていますが、その究極の目的は大きく重なっています。したがって、実際に運用をしていく場面では、一方での対応が他方での対応に役立つことなどが多くあり、両者はいわばクルマの両輪といえます。
どちらへの対応もおろそかにすることなく、しかも両者に対して有機的に対応していくことで、企業としての社会的責任などの観点からも、より効果的に対応していくことが可能となるでしょう。

 

(2)暴排条例対応 → 犯収法対応

FATFが作成した対日相互審査報告書は、「2006年、組織犯罪グループは、資金洗浄に関する事件の約40%に関与していた。」と指摘しています。つまり、暴力団等の反社会的勢力に該当する者は、マネー・ローンダリングを行う可能性が極めて高いといえるわけです。
したがって、暴力団等の反社会的勢力との取引を一切遮断するという暴排条例や政府指針への対応を進めることは、自らがマネー・ローンダリングに加担することになることを防止する効果がとても高いといえるでしょう。

 

(3)犯収法対応 → 暴排条例対応

暴排条例での対応においては、取引開始時点において、相手方が反社会的勢力に該当する者であるかどうかをチェックすることが主な対応となります。実際には、過去の報道などを基に構築したデータベース(反社データベース)に企業名や役員名が合致するものがないかどうかをチェックし、疑わしい場合には各地の警察や暴追センターに照会するなどの確認作業を行います。
しかしながら、このような独自のデータベースなどは完全とはいえませんし、警察などには同一の取引先について頻繁に問合せをするわけにもいきません。したがって、問題無いと思って取引を始めた相手が、実は当初から反社会的勢力であったり、取引の途中から反社会的勢力になってしまったりしたのに、それに気が付かずに取引を継続してしまっているという事態が発生し得ることになります。

他方で、犯収法対策におけるモニタリングでは、疑わしい取引を届け出る必要性などから、取引先との取引を継続的にチェックする必要があります。このような継続的な顧客管理を徹底することは、取引開始時に把握できなかった取引相手の反社会的勢力該当性を、その後の何らかの時点で認識できることとなる可能性を高めることにつながります。
したがって、犯収法対策を徹底することが、暴排条例等で求められる反社会的勢力への対応を強化することにもつながるといえます。

 

【参考文献】 白井真人・渡邊雅之「マネー・ローンダリング対策ガイドブック」レクシスネクシス・ジャパン株式会社 2013年

 

2013年3月29日 鳥飼総合法律事務所

 

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