連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第33回 国外支店との取引にも独立企業間価格が適用?

国外支店との取引にも独立企業間価格が適用?

 

Q  平成26年度の税制改正で国際課税原則が変更されたと聞きましたが、どう変わったのですか?当社は内国法人ですが、影響を受けるのは日本に支店等を有する外国法人のみでしょうか?これまでと変更すべき点はありますか?

 

A これまで日本が採用していた国際課税原則は「総合主義」でしたが,今年度の改正により「帰属主義」へと改正されました。

内国法人は、国外PE(支店・工場などの恒久的施設)の国外源泉所得について外国税額控除を適用する場合、PEの帰属所得計算が必要になります。そのため、本店とPE間の内部取引認識のための文書作成が義務付けられました(法人税法69条20項等)。

適用は平成28年4月1日以降開始事業年度分の法人税からですが、文書化に必要な情報を今から準備しておくほうがよいでしょう。

 

(解説)

1.総合主義と帰属主義の違いについて

日本は内国法人や居住者に対しては、全世界所得を課税対象としていますが、それ以外の法人や個人(以下「外国法人等」といいます。)に対しては国内源泉所得のみを総合して課税対象としています(これを「総合主義」といいます。)。

この場合、外国法人等が日本に支店や工場等の恒久的施設(PE)を有する場合に、そのPEが国外で稼得した所得は、課税対象ではありません。

これに対し、今回の改正により外国法人等について、国内PEに帰属する所得のすべてを課税対象とすることになります(これを「帰属主義」といいます。OECDモデル条約の考え方に基づいていますのでAOA(Authorized OECD Approach)ルールとも呼ばれます。)。

このように説明すると影響があるのは外国法人等のみであるように思われます。しかし、内国法人が国外にPEを有している場合にも外国税額控除の適用においては影響があります。具体的には、その国外PEの帰属所得がいくらであるのかを算定して、外国税額控除額限度額を計算することとなります(改正前は、国外PEの帰属所得ではなく、内国法人の国外源泉所得を算定して、外国税額控除額限度額を計算していました。)。簡単にいうと、稼得した所得を国内所得と国外所得に分けるのではなく、本社の所得と国外PEの所得とに分けて、外国税額控除限度額が計算されることになります。

そして、その計算のために2つのステップで文書化が求められています(法人税法69条20項)。

 

2.STEP1:本店・国外PE間の内部取引の認識のための文書化

第1ステップの文書化は、帰属主義への変更に伴い、内国法人においても国外PEとの間の内部取引を認識することです。

具体的に、必要となる文書としては、次のようなものがあります。

● 契約書、領収書等の証憑類に相当する書類
● 内部取引の内容を記載した書類
● PE及び本店が果たす機能及びその機能に関連するリスクの内容を記載した書類

なお、内部取引ですので法的拘束力のある契約書等が当然には存在しないため、内部取引の存否及び内容を明確にするための文書を作成する必要があります。上記の書類のなかには、既に法人が作成しているもので代用できるものも多くあると考えられます。

 

3.STEP2:国外PEの帰属所得計算のための文書化

次に、STEP1で認識した内部取引について、PEが本店等と分離・独立した企業であるとして、移転価格税制と同様に独立企業間価格に基づく損益を認識することになります。したがって、移転価格税制と同様の書類が求められます。

移転価格税制と同様の書類には、次のものが想定されます。

● 価格算定方法及びその具体的内容等並びにそれが最も合理的であることの説明を記載した資料
● 取引価格の決定方法、取引条件(通貨、引渡条件、決済条件、値引等の有無)等
● 比較対象取引等の選定に関する事項
● 帰属金額の算出をするための資料
● 差異調整を行った場合の理由及び方法等

これらの文書化がされていない場合には、外国税額控除の適用が受けられなくなりますので、適用開始時期に向けて、早めに準備されることが望まれます。

 

鳥飼総合法律事務所

※ 本記事の内容は、2014年4月現在の法令等に基づいています。
※ 「リスクコンシェルジュ」連載全記事にはこちらからアクセスできます。

 

関連するコラム