連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第13回 建物の固定資産税 ~過年度の価格の誤りを争う~

建物の固定資産税 ~過年度の価格の誤りを争う~

 

Q 十数年前に建造した当社所有の本社ビル(非木造家屋)ですが、固定資産税について専門家に鑑定を依頼したところ、「建築当初の評価に誤りがあり、その結果、現在の固定資産税負担は過大となっている。」との助言を受けました。建築当初から十数年が経過していますが、この点について、裁判などで争うことはできますか。

 

A 少なくとも、建築当初の評価の誤りが重大であるといえる事情があれば、建築当初の評価誤りを理由とした争訟を提起することは可能と思われます。

 

(解説)

1.固定資産の評価は、原則として3年に一度しか争えない

固定資産税は、固定資産(土地、家屋及び消却資産)を課税物件として課される市町村税です。

固定資産税は、「固定資産課税台帳」という市町村の備える帳簿に登録された価格等に従って課税されることとされているところ(地方税法349条、349条の2)、登録価格についての不服は、固定資産評価委員会という組織に対する審査の申出と、当該委員会の決定に対する取消訴訟の方法でのみ争うことができます(同434条2項)。

他方、土地、家屋については、原則として基準年度(平成21年、24年など、3年毎に訪れる年度)の評価額が、2年度、3年度にも据え置かれ、この場合に審査の申出ができるのは、基準年度のみとなります。
 つまり、土地、家屋の評価額については、原則として3年毎に訪れる基準年度においてのみ、争うことができます
 このように、地方税法が固定資産の評価に係る争訟方法について制限を加える趣旨は、固定資産の価格を早期に確定させるためであると解されています(金子宏「租税法(第17版)」582頁)。

 

2.家屋の評価方法に内在する問題

固定資産課税台帳に登録される価格は、総務大臣の定める「固定資産評価基準」によることとされています(同403条1項)。

固定資産評価基準では、家屋については、家屋の再建築費(擬似的な建築コストを積み上げた価格)を求め、時の経過によってその家屋に生じる損耗の状況による減価を行って評価する方法(再建築価額法)が採用されています。
 再建築価額法によりますと、建築当初には、当該家屋の時価が一応算定されるのですが、その後の年度では、原則として前年度の価格に一定の率を乗じた金額をもって評価額が算定されます。

つまり、建築当初の家屋の評価に誤りがあった場合、その後の年度においても、当該誤った評価額を基礎とした誤った評価がなされる構造となっています。建築当初の評価誤りは、ずっと後を引いてしまうわけです。
 くわえて、固定資産税は、賦課課税方式、つまり、課税庁の側で税額を計算し、課税する方式の租税とされています。そのため、申告納税方式を採用する所得税や法人税等と異なり、納税者の側で税額を吟味する機会に乏しいという問題があり、建築当初から永年経過したのちに、建築当初の評価誤りが発見される、という例が少なくありません。

 

3.建築当初の評価の誤りを争うことの可否

  以上のように、建築当初の評価の誤りが、後々の評価にも影響するという固定資産評価基準の定める計算構造の特徴、および、賦課課税方式が採用されているため、納税者の側で誤りを発見する機会に乏しいという現実を踏まえますと、例え、建築当初より年月を経ている場合であっても、(1で述べた審査の申出や訴訟の中で)建築当初の評価誤りについて争うことも認める必要があるように思われます。
 他方で、固定資産の価格を早期に確定させるため、地方税法が固定資産の評価に係る争訟方法について制限を加える地方税法の趣旨に照らせば、過年度の評価誤りに関する主張は制限すべきである、という考え方も成り立つ余地があります。
 この点に関連する裁判例の態度は分かれており、前年度までの価格は、固定資産評価基準に適合する適正なものであると推認されるとするもの(大阪地裁平成18年8月1日判決)、「建築当初の評価において適切に評価できなかった事情がその後に判明したような場合や、建築当初の評価の誤りが重大で、それを基礎にその後の家屋の評価をすることが適正な時価の算定方法として不合理であると認められるような場合」に限り、建築当初の評価の違法を主張できるとするもの(東京地裁平成23年12月20日判決・判時2148号9頁)などもあるようです。また、過年度の過大納税について国家賠償請求を認める判例もあり(最高裁平成22年6月3日判決・判タ1326号99頁)、この判例と、上記の各裁判例との関係も問題となりそうです。
 以上のとおり、過年度の評価の誤りを争うことができるのかについては、必ずしも明らかではない状況にあります。
 とはいえ、過年度の評価誤りに関する主張を制限する立場であっても、その誤りが重大である場合には争う余地を認めています。
 したがって、本件建物の場合でも、建築当初の誤りが重大であるなどの事情があれば、いずれの裁判例の立場によっても、争うことは可能でしょう。なお、固定資産評価委員会への審査の申出は、価格等の登録の公示の日から納税通知書の公布を受けた日後60日以内に行わなければならないなどの手続上の制限があるので、注意が必要です。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 島村 

※ 本記事の内容は、2013年4月現在の法令等に基づいています。

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