連載 リスクコンシェルジュ~知財関連リスク 第3回 特許制度とリスク

特許制度とリスク

1 はじめに

先日、米連邦地裁が特許侵害を理由とするアップルのサムスンに対する訴えを認め、日本円にして800億円以上の賠償金の支払いをサムスンに命じたことは、日本でも大きなニュースとなりました。アメリカでは陪審制があることや、懲罰的賠償制度があること等の理由から、賠償金の額が高額になりがちであり、特許権侵害により訴えられることが大きなリスクとなっています。

2 そもそも特許制度とは?

特許制度は、①有用な発明があった場合にそれを国家に開示してくれたことを代償として独占的な権利を認め、他方、②一定期間経過後は誰もが自由に発明を利用することができることを内容とする制度で、①と②のバランスを保ち産業の発達に役立つ制度であると考えられています。

①の期間中に、特許権者の承諾なしに、他の者がその特許を利用して物を生産したりすると、特許権者は、差止請求権を行使したり、損害賠償請求権を行使するなどの対抗手段を採ることができます。特にアメリカでは特許権者の権利が強く認められる傾向にありました。

3 特許制度に巣食う怪物

ところが、アメリカでは20世紀の末頃から、特許制度を悪用した金儲けが横行するようになってきました。倒産した会社や、倒産しそうな会社から特許を買いあさり、その特許を知らずに侵害している会社に対して、製品の差止めや裁判を匂わすことで、高額の和解金を取るというビジネスです。このようなことを行う者はNPE(non-practising entity)とか、ネガティブな言い方ではパテント・トロール(トロールとは北欧の伝説に出てくる怪物を指す)などと呼ばれています。NPEがブラックベリーという携帯電話を製造するRIM社に対して2005年に起こした訴訟では、日本円にして約620億円もの和解金が支払われ話題になりました。その後、NPEを抑制するような法改正や判例の出現があるものの、現在でもNPEの数は増加していると言われています。

4 日本にも怪物が来るか

日本においては最近までNPEが目立つことはありませんでした。しかし、法制度の違いがあるとはいえ、日本国内でもNPE類似の者が跋扈する日が来るかもしれません。2012年7月21日付日経新聞朝刊では、今年4月上旬、英領バージン諸島に登記のある会社から、ソニーやNECなど20社を超える国内企業に特許料を請求する警告状が届き、警告状には特許に関する契約をしなければ東京地裁に提訴すると記載されていたとの報道がされています。

5 できるところから対策を

技術が複雑化している今日、うっかり特許侵害をしてしまうリスクは増大していますが、自社の製品やサービスが他社の特許権を侵害していないかを事前に十分確認するなど丁寧に対策をしていくことが重要だと思われます。また、相手がNPEでなく通常のメーカーの場合は、相手も自分の特許を侵害していることを指摘してお互いにライセンスをすることで和解する(いわゆるクロスライセンス)の手法を取ることもできます。その他、仮に警告を受けたとしても、額を安くしてもらうよう交渉すべきなのか、警告は根拠の無いものであるとして争うべきかを判断できるようにしておくと良いかも知れません。訴訟になってしまったとしても、相手方の特許の無効を主張したり(無効の抗弁:特許法104条の3)、裁定実施権制度(一定の事由がある場合、ライセンスについて協議を求めることができ、協議不成立の時は特許庁長官に裁定を請求できる制度。特許法83条など)を利用して身を守ることが考えられます。

 本連載の第3回を最後までお読みくださり、ありがとうございました。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 渡邊康寛

※ 本記事の内容は、2012年9月現在の法令等に基づいています。

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