連載 リスクコンシェルジュ~知財関連リスク 第17回 法改正を知らないリスク・・・特許権の付与後レビュー制度の改正動向

法改正を知らないリスク・・・特許権の付与後レビュー制度の改正動向

 

以前、「商標法改正の動向 テレビCMに流れているメロディも商標権の対象に?」において、経済産業省・特許庁が、メロディ、動きなどについても商標登録できるようにする法改正を検討していることをご紹介しました。

知的財産に限らず、現代社会は近年大きく変化していますし、今後も変化し続け、更にそのスピードも速くなってきています。その動きに対応して、法改正も頻繁に行われるようになっています。法改正を知らなかったというのでは、それ自体がリスクになりかねないですし、ビジネスチャンスを失うことにもなりかねません。

 

そこで、今回は、経済産業省・特許庁が同じく法改正を検討している、「付与後レビュー制度」についてご紹介します。

この付与後レビュー制度の創設は、「強く安定した権利の早期設定の実現」を目指すべく「従前の異議申立制度の問題点を改善」した上で、「特許の権利化後の一定期間に特許付与の見直しをする機会を与えるための新たな制度」として検討されています。現段階では、特許権の設定登録後6か月以内に限り、新規性、進歩性、記載要件などの公益的事由を理由として申し立てることができ、審判合議体が申立内容を審理し、特許が見直されるべきと判断した場合に限り、特許権者に通知するものとされています。また、原則として書面審査で行うとされています。

 

それでは、なぜこの付与後レビュー制度の創設が検討されているでしょうか。

まず第一に、現在、特許権付与の見直しの機会として無効審判がありますが、口頭審理が原則とされているなど無効審判が十分に利用しやすい制度とはなっていないことが挙げられます。また、年間2000件ほど特許権が取り消されたり、訂正されていましたが、異議申立制度が廃止されたことに伴い、本来は権利化することができないような問題のある特許権が存在し続けている可能性があります。

また第二に、特許出願の審査の待ち期間は、短縮されてきており、2013年には11か月にまで短縮される見込みで、外国において簡易かつ早期の権利化が可能な特許審査ハイウェイ(PPH)があり、近年このPPHを通じた特許出願が増加しているという状況があります。しかし、第一の問題点として掲げた、本来は権利化することが出来ないような問題のある特許権に基づき海外展開してしまっていると、それこそ非常に高いリスクを抱えることになってしまい、足元をすくわれる結果となりかねません。

このような状況に対応するための制度として、付与後レビュー制度の創設が検討されているのです。

 

この付与後レビュー制度によって上記問題点の改善が期待できます。すなわち、事業展開を検討している者にとっては他者の特許権が有効かどうかを早い段階で確認することができ、また特許権者にとっても、早い段階で特許権の有効性を確認することができ、双方にとって事業展開のリスクを低減することが可能となります。また、付与後レビューを経ていることで、海外の特許庁で特許権が無効とされるリスクも軽減することができるでしょう。

以上の付与後レビュー制度を設ける法案は、まだ国会に提出されていませんが、今後の動向が気になるところです。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 大久保映貴

※ 本記事の内容は、2013年5月現在の法令等に基づいています。

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