連載 リスクコンシェルジュ~知財関連リスク 第9回 ブログに新聞記事を引用することは大丈夫?

ブログに新聞記事を引用することは大丈夫?

 

1.個人による情報発信の広がり

 昨今、ブログやSNSといった個人の情報発信ツールの発達にともなって、誰もが簡単に自由な情報発信を行うことができるようになりました。しかし、このような情報発信にもいくつかの落とし穴があります。

例えば、新聞の記事を自分のブログに写して書くような場合にはどうでしょうか。

 

2.新聞記事をブログに転載することに問題はあるのか

まず、新聞記事を引き写してブログに載せてしまうことは著作権侵害となるのかが問題となります。新聞記事は事実を簡潔に表しただけで、創作的表現ではないため著作物ではないのではないように見えます。しかし、新聞記事は、死亡記事や首相の動静のような単なる事実の羅列であればともかく、そうでない通常の記事は記者の創作的表現であるといえますから原則として著作権法により保護されます。そうしますと、記事をそのまま転載したり、改変して転載したりすることは著作権法違反となります。

 

3.社説や巻頭言などは転載できる

著作権法では、禁止にはいくつかの例外が認められています。まず、時事の論説は、自由に転載できます。新聞の論説は、いわば意見のようなものですから、それを広く公衆に知らせることには価値があるからです。しかし、これはあくまで「社説」や雑誌の巻頭言などの、政治・経済・社会上のメッセージを対象としていますから、文芸評論などは含まれません。また、転載を禁止する表示があればやはり転載はできません。慣行としては署名記事は転載禁止と理解されているようです。

 

4.正当な引用とはどういう引用か。

例外の2つ目は、正当な引用である場合です。ブログの記事の中に、新聞記事が引用として転載されている場合に、それが公正な慣行の範囲内でかつ正当な範囲内で行われるのであれば著作権法違反になりません。では、どういう場合にはそうといえるかなのですが、いくつかのファクターを総合的に判断する必要があります。そのファクターは、主従関係と明瞭区別性であるとされています(最判昭和55328日)。明瞭区別性は、引用元の記事とブログ記事が明確に区別されていることを言います。この要件は、少し気をつければ、クリアできるでしょう。なお、引用元の表示は必須ではありませんが、読者の便宜や明瞭区別のための一要素として表示しておくことがよいでしょう。

次に、主従関係といいますのは、ブログの本記事が「主」で、引用された新聞記事が「従」という主従関係があることです。ブログの本記事よりも、引用された新聞記事の方がブログの主目的であるかどうか、記事の内容の中心的意味を持っているかどうかなど、その他分量なども考慮して判断することになります。この判断は難しいところがあり、実際には判断に迷うことが多いでしょう。少なくとも、新聞記事を転載しただけのものや、新聞記事の内容を伝達することのみが目的となっているようなものは、主従関係がないと判断されることになります。

もっとも、新聞記事そのものを転載するのではなく、ネットニュースのURLのリンクを貼るという方法もあります。この場合には著作権法に反することにはなりません。

 

5.フェアユースの考え方

このように、新聞記事をブログに貼り付ける行為は、ややもすると著作権法に反することになりかねません。著作権法では、明文で例外として規定した場合を除いて、許諾のない複製はすべて著作権侵害になってしまうため、その例外にあたる場合をどのように区別するかが問題となります。

しかし、引用に限らず、社会的に有用と思われ、著作権侵害とすべきではないと考えられるような場合も、多くあります。このような場合に、侵害とすべきかどうかの判断を柔軟にするために、一般的に妥当な場合に著作権侵害としないとする規定を設けるべきだとの議論があります(フェアユース)。実際にアメリカでは採用されているのですが、日本ではまだ議論の過程にあります。そのため、ブログやSNSで新聞記事を利用することに、一定の社会的な意味や正当性がある場合も考えられますが、現時点ではそれによって直ちに著作権侵害を免れることにはならないと考えられますので注意しましょう。

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 本田 聡

※ 本記事の内容は、2013年1月現在の法令等に基づいています。

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