急増する肉用牛免税の税務調査-農業生産法人が税務調査で問題とされるポイントを解説します-

※ 下記リンク先では、近年の税制改正を踏まえた解説がご覧いただけます。
 肉用牛免税特例-強化された税務調査と留意すべきポイント-

 

1.肉用牛免税とは

 租税特別措置法67条の3は、「農業生産法人」がある一定の条件を満たした肉用牛を販売した場合、法人の所得の一部を損金の額に算入できるという特典を与えています。

 これが一般に「肉用牛免税(肉免)」といわれるものです。

 正式には、「農業生産法人の肉用牛の売却に係る所得の課税の特例(租税特別措置法第67条の3)」といいます(以下では便宜的に「肉用牛免税」と表記します)。

 

2.急増する肉用牛免税の税務調査

 この肉用牛免税は、昭和42年に初めて導入されたものですが、「形を変えた補助金」などという批判も根強く、税制改正時には常に議論の俎上にのぼり、廃止すべきという意見も多く出ているところです。

 そのため、法律に定められた条件を守っていない肥育農家に対しては近年、強化された税務調査においてそれらが指摘され、更正処分(追徴課税)が行われるということが増加してきました。

 税務署によって更正処分(追徴課税)がなされますと、法人税はもちろんのこと、加算税や延滞税といったペナルティまで掛かってきてしまい、現金で追加納税することが求められますから、その負担は決して小さいものではなく、肥育農家の経営を揺るがしかねないような事態にまでなってしまいます。

 

3.肉用牛免税が認められるためには

 肉用牛免税が認められることは決して難しいことではありません。法律に定められた条件をきっちり守りさえすれば、その特典を受けることが出来ます。

 ただ、日々、牛の世話に追われる農家の方々はついつい帳簿の処理などが後回しになってしまい、気が付いたら条件が欠けていた、ということもあるかと思います。

 そこで、肉用牛免税に関して、農業生産法人が税務調査で指摘されやすいポイントについて解説をさせていただきます。

 

4.肉用牛免税が認められるポイント-その1-(ステップ1~ステップ5)

 まずここでは、肉用牛免税が認められるポイントのうち、どのような法人であることが必要なのか、ということと、どのような牛をどのような方法で売却すれば良いのか、ということについて解説します。

 

 【ステップ1:農地法2条3項に規定する農業生産法人であること】

 この特典は、「農地法2条3項に規定する農業生産法人」だけに認められています。したがいまして、まず気を付けるポイントはここです。どんなに大量の肉用牛を肥育していても、この条件を満たしていなければ特典を受けることは出来ません。もう一度、法人が、「農地法2条3項に規定する農業生産法人」であるかどうか確認しましょう。

 

【ステップ2:肉用牛は定められた方法により売却されていること】

 この特典を受けるためには、どのような売却方法によっても良いというわけではなく、「農業生産法人が自ら飼育した肉用牛が、定められた方法により売却されていること」が必要になります。具体的には、

 (1)肉用牛については、「家畜市場、中央卸売市場等で売却」されていなくてはなりません。

 (2)生産後1年未満の肉用牛については、「農業協同組合又は同連合会のうち政令で定めるものに委託して行う売却」でなければなりません。

 したがいまして、農業生産法人がどの牛をどのような方法で売却しているのかをもう一度見直してみましょう。

 

【ステップ3:免税対象飼育牛であること】

 農業生産法人が自ら飼育した肉用牛が、定められた方法により売却されていても、その肉用牛が「免税対象飼育牛」でないとこの特典は受けることが出来ません。

 免税対象飼育牛とは、次の条件を満たした肉用牛をいいます。

 (1)農林水産大臣の承認を受けた規定に基づいて登録されている肉用牛

 (2)その売却価額が100万円未満である肉用牛(交雑牛は80万円未満、乳牛は50万円未満)

 このような条件が付けられているのは、肥育農家が、一般家庭用の肉用牛から業務用(高級料亭用など)の肉用牛への生産といった高級肉用牛への生産志向傾向が出てきた ためです。したがって、ブランド牛などは免税対象飼育牛に該当しない場合が出てくることに注意が必要です。

 

【ステップ4:1500頭以内であること】

 この特典を受けることが出来るのは、「最大で1500頭」です。したがいまして、それ以上の牛が免税対象飼育牛に該当するとしても、1500頭を超えて計算をすることは出来ませんのでご注意ください。

 なお、その1500頭にどの牛を選ぶかは法人が自由に選ぶことが出来るとされていますので、出来るだけ得になるような牛を選びましょう。

 

【ステップ5:法律で定められた肉用牛であること】

 この特典を受けることが出来る肉用牛はどんな牛でも良いというわけではありません。「農業災害補償法111条1項に規定された肉用牛等及び乳牛の雌等」とされていますので、育てている牛がこれに該当するかどうか確認をしましょう。

 以上、肉用牛免税が認められるポイントのうち、どのような法人であることが必要なのか、ということと、どのような牛をどのような方法で売却すれば良いのか、ということについて5つのポイントを解説させていただきました。

  それでは、次に税務申告上の手続きについて解説していきます。

 

5.肉用牛免税が認められるポイント-その2-(ステップ6~ステップ8)

 さて、せっかくの特典です。税務申告をキッチリとやっておきましょう。この手続きに一つでも不備がありますとこの特典は受けられないこととなりますので、注意が必要です。

 

【ステップ6:申告書に記載があること】

 この特典を受けるためには、「確定申告書に、免税対象飼育牛の売却による利益の額に相当する額について、損金の額に算入している」ことが必要になります。この利益の額の計算方法は、「売却した免税対象飼育牛に係る収益の額-その収益に係る原価の額-その売却に係る経費の額」とされています。

 つまり、「売上-原価-売却経費」、すなわち利益部分を丸々損金の額に算入することになります。

 

【ステップ7:計算明細書が添付されていること】

 この特典を受けるためには、申告書に記載があるだけではダメで、「損金の額(すなわち利益の額)の計算に関する明細書が添付されていること」が必要です。

 申告書と一緒に忘れずに添付してください。

 

【ステップ8:売却証明書が添付されていること】

 申告書に損金の額を算入した、明細書も付けた。あともう一息です。「免税対象飼育牛の売却が定められた方法により行われていること、売却価額やその他必要事項が書かれている証明書が添付されていること」が必要です。

 この証明書は、ステップ2で書いた、「家畜市場・中央卸売市場等、農業協同組合又は同連合会」で発行してもらうことになります。

 これらの申告要件を、確定申告書の提出時に満たして初めてこの特典を受けることが出来ます。

 申告のときに付け忘れたから後で出せばいいだろう、と思っても、税務署は絶対に受け付けてくれません(「災害」など「やむを得ない事情」があった場合に例外的に認められることはありますが、このようなことはまず無いと思ってください)。

 

6.せっかくの特典です、法律に則って有効に使いましょう

 肉用牛免税の特典を受けることが出来る必要事項を、ステップ1~ステップ8までで概略を解説させていただきました。実際には、法令や規則、また通達などで色々と細かい条件が規定されていますが、それほど多くの条文でがんじがらめにされているというわけではありません。せっかく国が設けてくれた特典です。法律に則って有効に使いましょう。

 

鳥飼総合法律事務所 税務部 高田貴史

 

※平成23年6月30日現在の法令等によります。税制改正等で条件が変わることがありますので、最新の情報に照らしてください。

※本稿は一般的な情報を提供するものであり、法的助言を目的とするものではありません。個別の事案については、当該案件の個別の状況に応じて、税理士等専門家の助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載された見解は筆者の個人的見解であり、税務官庁等の見解とは異なることも有り得ます。したがって、本見解に沿って行動した場合における法律上の安全性を保証するものではございません。

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