今週の名言 第2回 2004.02.16
Monday, February 16, 2004
知識をもつ人たちは、企業の就職口は多様な選択の一つでしかないがゆえに、勝者である。彼らは選択できるがゆえに、勝者である(P・F・ドラッカー「新しい現実」ダイヤモンド社刊)。
これは、知識社会の到来という新しい現実を表現した文章である。
最近の日本では、仕事を選択できるプロと呼べる人たちが増えてきつつあるのは確かである。
しかし、知識社会の勝者を認識している人は多くはない。終身雇用の下では、組織に就職すること自体に価値があり、企業を選択の対象とは考えていなかったからである。
専門家の知識は社会のいたるところが必要としているから、専門家は1つの組織に依存する必要がないというのが知識社会の特徴である。
日本社会は「失われた10年」を経て、日本的経営に対する自信が揺らぎ始めたために、知識をもつ専門家が企業という組織から離れることを知り始めた。
このことは日本の従来の強みを維持する上では、見失ってはならない新しい現実である。
日本企業の強みの一つが専門的な高度な知識である「暗黙知」であることは知られている。
これは製造現場等における高度な技術知識の承継が日本の製造業の競争力を支えていたことを示すものである。
この「暗黙知」は、終身雇用制の下で花開くものである。従業員がある企業に終身いることを覚悟しているから、専門知識をその企業にいわば無償で引き渡したのである。
終身雇用が日本の強みであることを忘れて、それを捨て去る企業が増える傾向にあるが、果たして、企業の「暗黙知」はどうなるのか。
知識社会の到来をいまだに理解していない経営者が多い。ドラッカーも次のように指摘している。
「日本では、特に企業幹部の古い世代の人たちは、想像さえできない問題であるにちがいない。」
職務発明の対価に関する最近の判決が話題になっている。特に、発明の対価を604億円と算定し、請求の全額である200億円の支払いを命じた判決に驚きの声が出ている。
この事件の特殊性のために、金額が極端に振れたのは否定できない。その特殊性を強調して問題の沈静化を図ろうという論理も出ているようである。
しかし、この問題の本質は「職務発明の対価」自体にあるのではない。
終身雇用制を廃止することで、従来、専門家の知識が「ただ」同様に手にはいるという「暗黙知」という日本社会の競争優位が崩壊の危機にあるという新しい現実を職務発明の対価をめぐる争いは示しているのである。
専門知識はただでは手に入らない。専門知識をもつ者はその知識を渡す相手を選択できるという社会が知識社会である。
日本社会もこのような知識社会に対する認識をすべき時代の到来を認識し、それに対応することを考えるべきである。
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