税務訴訟 税務訴訟の基礎実務 (3)

税務訴訟の基礎実務 (3)

 税務訴訟の実務の問題点は、税務訴訟の制度及び運用ともに、納税者に著しく不利益なものとなっている現実である。その例は多数にのぼるが、その一部について、何回かに分けて説明することとする。この税務訴訟の実務の現実を知ることを、税務実務のあり方を再検討する出発点としていただければと思っている。
 さて、納税者に不利益なことの第一は、税務訴訟を提起する際の申立手数料の点にある。例えば、1億円を納付すべきという課税処分の取消を求めて、地方裁判所に訴えを提起するには、原告の納税者は417,600円の申立手数料を要する。地方裁判所で敗訴して高等裁判所に控訴するには、さらに、626,400円の申立手数料が必要となる。そこで、納税者が税務訴訟を提起することを決意するには、上記の例では、税務訴訟の厳しい現実の前では、申立手数料だけで、100万円余りの金員の用意をしなければならない。
 この申立手数料は、課税処分の取消対象額が大きくなればなるほど金額が大きくなる仕組みになっている。したがって、取消対象の課税処分額が10億円になると、地方裁判所への申立手数料は、3,117,600円、高等裁判所への申立手数料は、4,676,400円となる。したがって、この例では、700万円超の申立手数料を用意することが税務訴訟を始める条件となる。
 このように、取消対象の課税処分の額が大きくなればなるほど、申立手数料の額が大きくなり、そのことが税務訴訟の大きな障害になっている。とくに、相続税の課税処分のように金額が大きくなるものは、申立手数料を用意できずに、提訴を断念する場合がある。この点、株主代表訴訟は、訴額の如何にかかわらず、一律8,200円の申立手数料で提訴できるようになっているのと好対照である。この税務訴訟における申立手数料の障害のため、本来は、税務訴訟で課税処分の取消を請求すべき事案が裁判を受ける機会を奪われていることは銘記すべきことである。
(文責 鳥飼重和)
株式会社バンガード社バンガード・ジャーナル1999.11.15より転載

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鳥飼 重和

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