会社法QA 第11回 ストックオプション

 ※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。

【テーマ】 ストックオプション

【解説】
1 ストックオプションの付与は業績に影響を与える可能性が!
 ストックオプションは、業績向上へのインセンティブを与えることができるだけでなく、会社にとっても資金負担が発生せず、かつ費用計上されないため決算にも悪影響を与えない、というメリットがありました。そこで、資金力に乏しいIT系ベンチャー企業などにおいて特に多く利用されていました。しかし、ストックオプションの世界的な損失計上の流れを受け、我が国においても、平成18年5月1日以降に付与されるストックオプションについては、費用として計上されることとなりました。既に、ストックオプションの付与に関して多額の費用を計上したことを公表している会社も出てきており、業績に与える影響も無視できなくなっています。

2 特別決議は不要に!
 旧商法では、ストックオプションは特に有利な条件による発行として株主総会の特別決議が取られていました。しかし、会社法では、取締役に対する付与は同法361条1項の報酬等の決議によって行われることとなりますので株主総会の特別決議は不要となります。具体的には、株主総会において、取締役に付与するストックオプションの内容とその上限額についての承認の決議を取ることになります。また、従業員等に対して付与する場合には、従業員等の労働上の貢献を加味した上でその発行条件が特に有利な条件か否かを判断できることとなったため、無償で発行する場合であっても、取締役会の決議によって発行することができるようになりました。

3 労働基準法25条との関係
 従業員の労働上の貢献を加味して労働の対価としてストックオプションを付与する場合には、賃金の全額現金払いの原則を定める労働基準法25条に抵触をしないかが問題となりますが、我が国の企業が従来付与してきたストックオプションは任意的恩恵的な給付であるため「賃金」には該当せず、同条に抵触することはないと考えられます。

【質問】
 当社は、当社の取締役、従業員だけでなく、取引先の役員に対してもストックオプションを無償で発行したいと考えております。どのような手続によって、ストックオプションを発行すれば良いのでしょうか。

【選択肢】
[1] いずれの発行も無償発行であるため特に有利な条件に基づく発行にあたり、株主総会の特別決議が必要である。
[2] 取締役に対するストックオプションの発行については、定められた報酬枠の範囲内であれば取締役会の決議によって発行できるが、従業員及び取引先の役員に対しては、特に有利な条件による発行にあたり、株主総会の特別決議が必要である。
[3] 取締役に対するストックオプションの発行は定められた報酬枠の範囲内であれば、また、従業員に対するストックオプションの発行については、当該従業員の労働上の貢献を加味して特に有利な条件とならなければ株主総会の特別決議は必要でないが、取引先の役員に関しては、株主総会の特別決議が必要である。

【正解】 [3]

【解説】
 旧商法の下では、取締役、従業員等に対して付与するストックオプションは、発行価格が無償として設計されていたため、特に有利な条件による新株予約権の発行にあたるものとして、株主総会の特別決議を経た上で発行されていました。
 しかし、会社法の下では、取締役らの役員に対して付与するストックオプションは「報酬等」(会社法361条1項等)に該当することが明確にされたため、新株予約権を無償で発行する場合であっても株主総会の特別決議を経る必要はなくなりました。例えば取締役の場合では、付与するストックオプションの価格の上限額(会社法361条1項1号)とストックオプションの内容(会社法361条1項3号)を決定すれば、その後は取締役会決議だけでストックオプションを発行できることとなります。
 また、従業員らに対して付与するストックオプションについても、従業員らの労働上の貢献を加味して公正価格による発行か否かを判断できるものとされています。したがって、労働上の貢献が認められる従業員に対しては、発行価格の点においてその貢献を加味することによって、取締役会の決議だけでストックオプションを発行することもできることとなっており、設問[1]及び[2]は誤りということになります。
 一方、取引先の役員に関しては、「報酬等」としてストックオプションを付与することも、労働上の貢献を加味してストックオプションを付与することも出来ません。したがって、この場合には株主総会の特別決議が必要となります。
 なお、ストックオプションを付与する際の法律構成としては、ストックオプションそのものを非金銭報酬として付与する考え方(現物付与方式)とストックオプションの公正価格を払込金額とする一方で、当該払込金額と同額の報酬あるいは賃金を支給することとし、払込に代えて当該金銭報酬請求権により相殺を行う方法(相殺払込方式)とが想定されています。

 

※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。

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