会社法QA 第19回 株式買取請求権
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。
【テーマ】 株式買取請求権
【解説】
1 株式の買取価格は「公正な価格」に!
事業譲渡や合併等の組織再編を行う場合には、反対株主の保護のため株式買取請求権が認められています(会社法469条、785条等)。この株式買取請求権が行使された際に会社が株式を買い取る価格については、旧商法下では、組織再編等についての「決議がなかったならば有するであろう公正な価格」とされていましたが(旧商法245条の2)、会社法では「公正な価格」によって買取がなされることとなりました。これによって、組織再編行為自体には賛成するが、それに伴い交付される財産の価額に不満を持つ株主の利益をも保護しうることになります。
2 議決権制限株式や簡易組織再編の場合にも買取請求ができることが明確に!
旧商法では、反対株主は、株主総会より前に反対の意思を会社に通知し、かつ株主総会において組織再編についての議案に反対する必要がありました(旧商法245条の2)。しかし、それでは議決権のない議決権制限株式や株主総会が開催されない簡易組織再編の場合に株式買取請求権が認められるのか否か明確ではありません。株式買取請求権は、組織再編等に反対の株主に対し投下資本の回収の機会を与えることに主眼があるのであり、それらの場合を除外する理由はありません。そこで、会社法では議決権制限株式や簡易組織再編などの場合にも株式買取請求権が行使できることが明確化されています(会社法469条2項、785条2項等)。また、旧商法では、株主は株主総会において組織再編行為が承認された後20日以内に買取請求権を行使しなければなりませんでしたが(旧商法245条の3)、組織再編行為等の効力が発生する20日前の日から効力発生の前日までと変更されています(会社法469条5項、785条5項等)。
3 買取請求権の行使の取下げには会社の同意が要件に!
旧商法では、株式買取請求権の取下げについて制限規定がなく、とりあえず株式買取請求権を行使し、その後の株価の変動を見て株価が下落した場合にはそれを取下げるなど濫用的に買取請求がなされる事案が散見されました。そこで、会社法では、一度買取請求をした以上は、会社の同意がなければ買取請求を取下げることはできないものとし、濫用的に株式買取請求権が行使されることを防止しています(会社法469条6項、785条6項等)。
【質問】
当社とX社との合併について一部株主から株式買取請求権が行使されました。当社の株価は、X社が合併の事前手続として行われたTOBによって一時急騰いたしましたが、TOB後は急騰前の価格から3割ほど下落し、その後合併がなされました。株式の買取価格についてどのように考えればよいのでしょうか。
【選択肢】
[1] TOBがなされる前の6ヶ月平均の株価によって買取るべきである。
[2] 合併の効力が発生する直前の価格によって買取るべきである。
[3] X社のTOB価格で買取るべきである。
【正解】 [3]
【解説】
1 買取価格が「公正な価格」へと変更された趣旨について
旧商法では,株式買取請求権が行使された場合の買取価格は「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」であるとされていました(旧商法245条の2等)。したがって,旧商法では,合併等がなされる前の株価を基準に買取価格が決定されることになります。
確かに,その場合でも合併等の組織再編自体に反対する株主の保護を図ることはできます。合併自体に反対する株主は,合併等がなされないことを望むのですから,買取価格は,合併等がなされる前の株価を基準にすることで足りるからです。
しかし,反対株主の中には,合併などをすること自体は賛成であるが,対価として交付される財産の割当てに不満がある場合も存在します。例えば,そもそも企業価値が適正に評価されずに合併比率が不当となっている場合や,合併によって生じるシナジーの分配が不公正である場合なども考えられます。そのような株主は,企業価値を適正に評価することや,シナジーを適正に分配することによって公正な価額の財産の交付を望んでいるため,合併等がなされる前の株価を基準に株式を買取るだけでは,その被る不利益を填補することが出来ません。
そこで,会社法では,反対株主の株式については「公正な価格」によって買取るものとし,買取価格は合併等によって生じるシナジーを含めて評価されることとなりました。
2 設問の場合について
対象会社の株価は,X社が合併手続に先立って行ったTOBによって上昇し,その後下落していますが,通常TOB価格は合併後のシナジーを加味したうえで算出されるため,シナジーの評価はTOB価格に反映されていると考えられます。
したがって,対象会社は,③のTOB価格によって反対株主から株式を買取る必要があります。
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※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。
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