税理士賠償責任 よくある事例(1) 平成13年4月
一 還付されるはずの消費税が還付されない!
私どもの事務所では、依頼者から損害賠償を請求された税理士さんのご相談を数多く頂いております。その中で、もっともよくある事例が、受けられるはずであった消費税の還付を受けられなかったとして、依頼者から還付金相当額を損害賠償請求されるという事例です。
二 免税事業者が課税事業者を選択するメリット
ところで、前々年の課税売上高が3000万円以下である事業者は、その年の課税売上高にかかる消費税を納めなくてよいことになっています(免税事業者・消費税法第9条第1項)。
しかし、免税事業者であっても、自ら課税事業者を選択することができます。このように、わざわざ課税事業者を選択するメリットはどこにあるのでしょうか。
前提として、消費税の納税額につき、ごく大雑把に説明しますと、まず売上にかかる消費税を計算し、ここから仕入税額控除等の税額控除をして消費税納税額を算出するという方法をとります。ここで、税額控除が多いため、売上にかかる消費税から引ききれないときは、その引ききれない分は事業者に還付されることになります。
しかし、免税事業者の場合、売上にかかる消費税がないことになりますから、仕入に際して負担した消費税も控除(仕入税額控除)されません。すると、たとえば課税仕入にあたるビル建築などの巨額の設備投資をし、それに伴い多額の消費税を支払った場合でも、その消費税は控除されず、還付もされないことになります。ところが、課税事業者を選択すれば、仕入税額控除をすることができますから、預かった消費税額より支払った消費税額が多いときには消費税の還付がうけられることになるのです。
このように、免税事業者が課税事業者を選択しようとするときは、課税事業者になろうとする年の前年末までに、「消費税課税事業者選択届出書」という届出書を、当該納税地を所轄する税務局長に提出することが必要です(消費税法第9条第4項)。
ただ、いったん、課税事業者を選択してしまうと、2年間は免税事業者に戻れません(消費税法第9条第6項)。したがって、この選択にあたっては、当該仕入税額の額や、今後の事業計画、業績の見通し等、さまざまな要素を考慮して決定しなければなりません。
ところが、免税事業者である依頼者から、ビルの建築計画がある等、高額の仕入税額が予想される事実を聞いたにもかかわらず、課税事業者を選択することを考慮にいれなかったため届出期間を徒過してしまい、結局還付が受けられなくなったという事例、およびこれに類する事例はあとを絶ちません。このような事例では、税理士に債務不履行があるとされ、還付されるべきであった税額を依頼者に対して賠償しなければならないことになります。
三 なぜ、債務不履行になるのか。
ところで、上記のような場合、なぜ税理士の債務不履行とされ、依頼者にその賠償をしなければならないのでしょうか。これは、税理士が税務の専門家として、税務に関する法令及び実務の専門知識を駆使し、法令の許容する範囲内で依頼者の利益を図る義務を負っているからです。
したがって、免税事業者である依頼者から、ビル建築などの設備投資計画の情報を入手した場合には、税理士は課税事業者選択の可能性を視野にいれ、依頼者からその判断に必要な事情を聴取して事実関係を把握し、適切な助言をすることが求められているわけです。
今月は、このコンテンツのスタートとして、よくある事例についてご紹介しました。次回以降では、ひきつづき事例のご紹介や、それに対する法的な分析、周辺の法律知識などについてお話ししていきたいと思います。
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