税理士賠償責任 よくある事例(3) 税理士事務所の職員の不法行為 平成13年6月

一  それは職員がやったことでして…は、やっぱり通用しません。

 税理士事務所の職員のミスが不法行為にあたると認定されるような場合(民法709条)、通常の依頼者は所長税理士に対しても不法行為責任を追及してきます。そして、職員に不法行為責任ありと認定されれば、所長税理士も職員の使用者として同様の賠償責任を負うことになります。これを「使用者責任」といいます(民法715条1項)。


 なぜ、職員のミスについても責任を負うのか。

 なぜ職員の不法行為にまで、所長税理士が責任を負わなければならないのでしょうか。この所長税理士の責任の根拠を一言でいえば「報償責任」ということになります。
 「報償責任」とは、「利益の存するところ損失も帰する」という意味です。すなわち、所長税理士は、税理士業務を遂行するにつき、その職員を使用することによって業務遂行の範囲を拡大させ、その分利益を得ているといえます。ですからその反面として、その職員が業務遂行につき第三者に損害を与えたときには、所長税理士が不法行為責任を負うのが公平だということなのです。


 使用者責任の成立要件

 所長税理士に使用者責任が成立するための要件は以下の通りです。
[1] 所長税理士と職員との間に、使用者・被用者の関係(使用関係)があること。
  [2] 職員が「事業の執行につき」、
  [3] 第三者に不法行為を行ったこと(715条1項本文)。

 これに対して、所長税理士は、
[4] 職員の選任及びその事業の監督につき、相当の注意をなしたこと(715条1項但書前段)、または、
相当の注意をなしても損害が生じたであろうこと(715条1項但書後段)。
を立証すれば免責されるとされています。しかし、判例上、[4]の免責が認められた例はなく、事実上無過失責任に近い運用がなされています。


 「事業の執行につき」

 解釈上、最も問題となるのが、[2]の「事業の執行につき」の要件です。
 この要件につき判例は、「『事業の執行につき』とは、被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合をも包含する。」と判示しています。これを「外形標準説」もしくは「外形理論」といいます。
 判例は、外形理論の適用を肯定するための要件として、
[1] 加害行為が被用者の本来の職務と相当の関連性を有すること
  [2] 被用者が権限外の加害行為を行なうことが客観的に容易な状態に置かれていること
を挙げています。

 これを具体的な事例にあてはめてみましょう。ある税理士事務所では、Aという業務は行っていますが、Aの周辺業務であるBという業務は全く行っていなかったとします。ですが、職員が気をきかせて(?)、依頼者に対しBという業務を行ない、結局依頼者に損害を与えてしまったとします。
 このような場合でも、Bという業務がAという業務と相当の関連性を有しており、しかも職員がBという業務を行なうことが容易な状態であれば、「事業の執行につき」の要件をみたすことになるのです。よって、職員に不法行為責任が発生し(民法709条)、所長税理士は使用者責任を負うことになります。
 このように、使用者責任の範囲は広く、認められやすいものなのです。

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