税理士賠償責任 受任内容にとどまらない税理士の責任 平成13年9月
一 受任内容にとどまらない税理士の責任
相続税の修正申告およびこれに関する税務調査への立会いを受任した場合、その税理士には延納についての法的な説明義務があるのでしょうか。すなわち、延納について何ら委任をうけていなくても、その説明を怠ったとすれば、納税者から損害賠償請求されてもやむをえないと言えるのでしょうか。これを肯定する高裁判例があります。今回は、この事例をご紹介致します。
二
事案の概要
本件の被相続人は、法定相続人の一人に単独相続させる旨の遺言を遺して死亡しました。その相続人は、相続税の申告と延納許可申請手続をある税理士に委任し、税務署長から延納許可を得ていました。しかし、他の法定相続人Xら(原告・控訴人ら)の希望により遺産分割協議をすることにし、約1年半後に協議が成立しました。
この協議成立に先立ち、Y税理士(被告・被控訴人)はXらから相談を受けるようになり、遺産分割協議が成立した場合の納税額を計算するなどしていました。しかし、Xらの娘と自分の妻が友人同士だったこともあり、報酬はとっていませんでした。
協議成立後、XらはY税理士に相続税の修正申告を依頼し、Yはこれを無報酬で受任しました。この時、既に期限後であったため、相続税の納付義務が直ちに発生し、納付までの間、延滞税が賦課されることとなりました。
Xらは、委任契約には延納許可申請が含まれる旨主張し、Yに対して延滞税と利子税の差額および慰謝料の支払を求める訴えを提起しました。
三
高裁の結論 ~委任内容は相続税の修正申告と税務調査の立会いである。
しかし、本件において、延納許可申請手続をするか否かの意思確認は、相続税申告に付随する義務である。
一審の横浜地裁は、委任契約に延納許可申請手続は含まれていないとして、Xらの請求を棄却しました。しかし、同様の事実関係のもとにおいて、控訴審は結論を逆転させたのです。
控訴審は次のように述べています(太字 著者)。
「税理士は税務の専門家であるから、税務に関する法令、実務の専門知識を駆使して、依頼者の要望に適切に応ずべき義務がある。」「税理士法上の義務として、法令に適合した適切な申告をすべきことは当然であるが、法令の許容する範囲内で依頼者の利益を図る義務があるというべきである。」
「そして、租税の申告(税額の確定作業)に伴い租税の納付が必要となるのであり、依頼者に納付の時期及び方法について周知させる必要がある。」
「特に、本件においては、相続税の修正申告(期限後申告)であり、その遺産総額は10億円を超え、控訴人らの納付すべき相続税の合計額は2億2539万8400円の多額にのぼり、延納の手続をしなければ、申告書を提出した日に全額を納付しなければならず、…(中略)…、延納の許可を受けるかどうかによって、控訴人らが負担する付帯税の額に大きな差があるものである。そして、控訴人らは、相続税を相続する土地の売却代金から支払うことを予定したのであり、遺産分割協議の成立までの間に売却の手配をしていたものの、確実に売却できる見込みがあったわけではなく、…(中略)…被控訴人としては、その事情を承知していたものと推認できる。」
「そして、相続税の延納許可を得ることによって、控訴人らに特別不利益が生ずることはない。」
「したがって、本件においては、相続税の修正申告にあたっては、相続税の納付がいつ必要であるのかを控訴人らに説明し、その納付が可能であるかどうかを確認し、これができない場合には、延納許可申請の手続をするかどうかについて控訴人らの意思を確認する義務があるというべきである。」
「このような納付についての指導、助言を行うことは、本件の事情のもとにおいては、単なるサービスというものではなく、相続税の確定申告に伴う付随的義務であり、この懈怠については債務不履行責任を負うものと解するのが相当である。」
なお、本件の相続については、まず法定相続人の一人が単独相続したものとして、期限内に相続税の確定申告および延納許可申請をしているという事情がありました。したがって、Xらは当然相続税の延納の手続があること等を知っていたものと認められ、Y税理士に修正申告を委任するにあたり、納付手続や延納許可申請について質問・相談することが期待できなくはなかったとして、Xらにも過失(3割)を認めています。
この判例は、無償の税務代理において委任契約違反が問われ、当事者が明示的に依頼しなかった事項についてまで委任契約の効力が及ぶとされた点で注目に値する判例です(東京高裁平成7年6月19日判決)。
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