国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 所得税法は“生身の人間”を対象

第1回 所得税法は“生身の人間”を対象

 個人は、会社に勤務して給与の支給を受けたり、事業を営んで利益を得たりするほか、土地や株式を売却しあるいは利子や配当を得るなどの様々な経済活動を行なっております。その個人の経済活動の成果である所得を課税対象とするのが所得税です。3億円の宝くじに当選した人、1億円を拾った人、オリンピックの金メダルやノーベル賞を獲得した方、相続や贈与により財産を取得した人なども、それぞれ所得を得たことになりますが、この場合の所得は、いずれも課税対象になるのでしょうか。また、株式投資で大損をした人、ゴルフ場や企業の倒産で所有していたゴルフ会員権や社債が紙くず同然となった人、これらの損失を他の所得から差し引くことができるのでしょうか。答えは、所得税法やこれに関連する法律などを学ぶ必要があります。
 このように個人は、様々な形で経済活動を行うとともに、消費活動も行っておりますので、個人の稼得する所有は多彩であり、その所得が課税の対象となるかどうかを律する所について明確な定義をおいてなく、源泉ないし性質に応じて利子所得から雑所得までの10種類に分類し、各種所得ごとにそれぞれの内容を定めております。しかし、雑所得については、他の所得分類に該当しない所得をいうものとていぎしておりますので、“所得とは何か”という点については解釈によらざるを得ません。また、所得に該当した場合であっても、所得税法等においては、別途、所得税を課税しない所得(非課税所得)についての定めを置いております。したがって、先に掲げた例についても、所得に該当するかどうか、どの所得分類に該当するか、非課税所得に該当しないのかなどの点についての検討が必要となります。
 この所得税法は、全文244条で構成されており、所得税法施行令が348条及び施行令規則が107条あるほか、租税特別措置法やこれらに関連する法規も少なくありませんし、これらの法規が全ての事項を網羅的に定めているわけでもありません。現実に発生する多様な社会現象の中から課税要件事実を的確に把握し、税法を当てはめて公平な課税がされるためには、ただ条文を読むだけでなく、条理はもとより、裁判例や学説の検討が不可欠ですし、国税庁の解釈通達も無視できません。以下、所得税法等を理解するための基本的な事項について見てみることにしましょう。