国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 傷害保険金等を受け取った場合

第8回 傷害保険金等を受け取った場合

 個人が受け取る死亡保険金に対する課税は、所得税又は相続税或いは贈与税の課税対象となりますが、障害特約や入院特約を付した場合に受け取る傷害保険金等については税金が課税されるのでしょうか。
 所得税法では、損害保険契約に基づく保険金及び生命保険契約に基づく給付金で、身体の障害に基因して支払を受けるものその他これに類するものは非課税とされます(同法9条1項1号、同施行令30条1号)。この場合の「身体の障害に基因して支払を受けるもの」には、疾病により重度の障害になったことなどにより支払を受ける「高度障害保険金、高度障害給付金、入院給付金等」も含まれます(所得税基本通達9-21)。また、「身体の障害に基因して支払を受けるもの」とは、文理上、身体に障害を受けた者に支払われる保険金等をいうのですが、障害保険金等の支払を受ける者と身体に障害を受けた者とが異なる場合であっても、その支払を受ける者がその身体に障害を受けた者の配偶者もしくは直系血族又は生計を一にするその他の親族であるときは、その保険金等についても、非課税として取り扱われます(所得税基本通達9-20)。
 このように、身体の傷害に基因して支払を受ける損害保険金又は生命保険の給付金は非課税とされておりますが、身体に傷害を受けて死亡した場合に受け取る死亡保険金は、何故に非課税所得に該当しないのか、理解し難いものと思います。裁判所(名古屋地裁平成元年7月28日判決・税務訴訟資料173号417頁、名古屋高裁平成2年7月17日判決・税務訴訟資料175号204頁)は、「身体の傷害に基因して支払われる保険金等は、通常、受傷者の治療費等に費消されることに鑑みて、これに課税することは現に療養中の受傷者に対し酷な結果になるとの政策的配慮にあると解されるところ、傷害による死亡に基因して支払われる保険金等の場合には、受傷者自身は既に死亡しているのであって、かかる保険金等に課税しても受傷社に対して酷な結果が生ずることはなく、傷害のみにとどまる場合とは明らかに状況を異にするのであるから、所得税法上傷害に基因して支払われる保険金等のみを非課税所得とし、死亡により基因して支払われる保険金等を課税する取り扱いをしても、実質的にも不合理であるとはいえない」と判示しております。何となく、すっきりしませんが、所得税法が“生身の人間”を課税対象とするだけに、生存者の担税力を配慮した非課税措置ということになるのでしょう。

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