国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 実質所得者課税の原則について
第12回 実質所得者課税の原則について
所得税法12条では、所得の帰属について実質所得者課税の原則を表明しておりますが、この条文の解釈については、法的実質主義と経済的実質主義の二つの見解があります。法的実質主義というのは、法律上所得が帰属すると外形的に認められる者と法律上の権利者とがある場合には、名義のいかんにかかわらず法律上の権利者に収益が帰属するという見解です。また、経済的実質主義というのは、所得の法律上の帰属者と経済上の帰属者とが異なっている場合には、私法上の法律関係を離れて、実際に経済的効果を享受している者に収益が帰属するという見解です。これら両説については、文理解釈上それぞれ難点があり、いずれも通説とまでは至っていません。
所得税基本通達では、資産から生ずる収益にあっては、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかによって判定し、事業から生ずる収益にあっては、その事業を経営していると認められる者が誰であるかによって判定することとしております。また、親族間における事業主については、経営方針の決定について支配的影響力を持っている者が誰であるかにより判定し、これが明らかでない場合には、原則的には生計主宰者がこれに当たるものと推定しますが、生計主宰者以外の者が医師、薬剤師等の自由職業者として生計主宰者とともに事業に従事している場合には、それぞれの収支が区分されており、かつ、その親族の従事の状態が、生計主宰者に従属していると認められない限り、その親族の収支に係る部分については、その親族が事業主に該当するものと推定することとされております。この通達は、法的実質主義に立つものだといわれております。
この点に関する裁判例に、親子が相互に協力して歯科医院を経営している場合の事業から生ずる所得は、その経営に支配的影響力を有していると認められる者に帰属するとしたものがあります(東京高裁平成3年6月6日判決・訟務月報38巻5号878頁)。右判決では、最高裁昭和37年3月16日判決・裁判集民事59号393頁を引用した上で、「収入が何人の所得に帰属するかは、何人の勤労によるかではなく、何人の収入に帰したかで判断されるべき問題であって、ある事業による収入は、その経営主体である者に帰したものと解すべきである」とした上で、父と子が生計を一にしていること、子の開業資金が父名義で借り入れられていること、父と子の収支が区分されていないこと等から、経営方針の判定について支配的影響力を有する者は父であるとし、父と子の診療方法及び患者が別で、診療収入の区分が可能であっても、医院の経営による収入は父に帰属するものと判示しております。
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