国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 同族会社の行為計算の否認
第14回 同族会社の行為計算の否認
所得税法157条では、同族会社の行為又は計算でこれを容認した場合にはその株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長はその行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより所得税の税額を計算することができる旨定めております(法人税法や相続税法においても同様な規定が設けられています。)。同族会社については、小数の株主等によって支配され首脳の一存で業務執行がなされることが多いことから、租税回避行為が行なわれやすいのです。そこで、これを防止し、租税負担の公平を維持する観点から、同族会社の行為等を容認した場合に株主等の所得税の負担を不当に軽減させる結果となると認められるときは、その行為を否認し、正常な行為等に引き直して株主等の所得税について更正決定を行う権限を税務署長に認めているのです。この場合の不当性の判断基準については、[1] 同族会社なるが故に容易になし得た行為であるか否かに着目するものと、[2] 純経済人の行為として不合理、不自然のものと認められるか否かに着目するものとに裁判例は分かれております。
ところで、同族会社の行為又は計算の否認規定は、かつては資産の高価買入れや過大な退職給与などについて、法人税を中心に発動されておりましたが、今日では、個人の所得税の場面で発動される事例が多くなっております。最近の裁判例では、[1] 不動産賃貸業を営む個人が同族会社である不動産管理会社に低額の賃貸料で不動産を貸付け、この不動産を不動産管理会社が第三者に通常の賃貸料で転貸することにより、不動産賃貸業を営む者の所得税の負担を軽減したとしてされた更正処分の適否が争われたもの(千葉地裁平成8年9月20日判決、その控訴審である東京高裁平成10年6月23日判決、上告審である最高裁平成11年1月19日判決ほか)、[2] 同族会社の社長が同社に対して無利息融資をした場合に、当該個人に対して利息相当額の雑所得を認定した更正処分の適否が争われたもの(東京地裁平成9年4月25日判決、その控訴審である東京高裁平成11年5月31日判決)などがあります。
なお、同族会社の行為又は計算の否認は、現実に行なわれた同族会社の行為自体を認めた上で、通常の経済人の行為に引き直して所得計算を行うものであって、同族会社の行為が仮装行為であるというのではないですから、この否認規定を発動する場合であっても、重加算税が賦課されることはないのです。
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