国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 不動産管理会社利用の節税と行為計算の否認
第15回 不動産管理会社利用の節税と行為計算の否認
高額の不動産所得を有する個人が、自己を主宰者とする同族会社を設立し、[1] その同族会社に所有不動産の管理を委託して高額な管理料を支払ったり、[2] その同族会社に所有不動産を低廉な賃貸料で貸し付け、この不動産を同族会社が第三者に通常の賃貸料で転貸したりして、不動産所得に係る所得税の節税を図る事例が少なくありません。これらの節税に対して国税当局は、所得税法157条に規定する同族会社の行為計算の否認を適用して更正処分等をしており、裁判所もその処分を支持しております。例えば、東京地裁平成元年4月17日判決では、不動産貸付業を営む納税者(原告)が同族会社に支払った管理料と、同規模同程度の不動産貸付業者が同族関係にない不動産管理会社に支払った管理料(標準的な管理料)とを比較して、原告が同族会社に支払った管理料は著しく過大であるとし、標準的な管理料に引き直して原告の所得税の計算をした更正処分が争われた事案であり、裁判所は、右処分を適法としております。
このように、不動産所得を有する個人は、高額の不動産管理料を同族会社に支払い、この管理料を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することにより、通常の管理料を支払う場合に比較して不動産所得に係る所得税の減少を図ることができるのですが、他方、その個人が同族会社の代表者として役員報酬や配当を受け取ると、給与所得や配当所得に係る所得税が生じますし、同族会社自身も法人税を納めることになります。そこで、不動産管理会社を利用した節税行為に対して所得税法157条の規定を発動する場合には、同法にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果」とは、[1] 不動産所得に係る所得税の負担を不当に減少させる結果が生じていればよいのか、それとも、[2] 同族会社の法人税の負担や、当該会社から支払われる役員報酬等に係る所得税の負担を加味したところで、トータルとしての税負担が不当に減少していなければならないかという問題が生ずるのです。上記の判決では、不動産所得に係る所得税の負担を不当に減少させている場合には所得税法157条の適用ができるとしておりますが、千葉地裁平成8年9月20日判決では、同族会社から支払われる給与所得や配当所得に係る所得税の負担をも加味したところで、「所得税の負担を不当に減少させる結果」であるかどうかを判断基準としております。
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