国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 新証券税制のスタート
第23回 新証券税制のスタート
昨年の6月以来、個人投資家を証券市場に参加しやすくするなどの観点から、数次にわたって株式等の譲渡益に対する課税の見直しが行われました。その新証券税制が平成15年1月1日に本格的にスタートすることになり、この9月には、株式等の売却益の申告と納税を証券会社が代行する制度「特定口座」の開設の受付が開始されました。しかし、新税制は、優遇措置があるとはいえ、極めて複雑で適用期間もバラバラ、使い勝手の悪い税制と悪評判です。
新証券税制では、源泉分離課税が廃止され、申告分離課税に一本化されるのですが、この税制では、納税者自身が株式等の譲渡益を計算し、税務署に確定申告をしなければなりません。そして、株式等の譲渡益は、売却代金から取得価額及び譲渡費用を差し引いて計算することになりますが、この取得価額の把握に納税者が戸惑うのです。株式等の取得価額とは、実際に購入した価格をいうのですから、証券会社から送付される売買報告書により計算できますし、売買報告書を無くした場合には、証券会社に問い合わせれば顧客勘定元帳(10年間保存)により把握できます。株式の売買を繰り返している場合は、取得価額は総平均法に準ずる方法(一種の移動平均法です)により算出しますので、計算が面倒ですが把握できないわけではありません。問題は、10年よりも前の時期に購入した株式で売買報告書を無くした場合です。また、相続や贈与によって取得した株式等は、税法上、被相続人や贈与者の取得価額を引き継ぐことになりますので、このような株式等についても取得価額の把握が困難です。同様に、従業員持株会を通じて取得した自社株は、持株会の事務局で各社員の投資総額を把握しておりますから、持株会に問い合わせれば、取得価額が判明するはずですが、退職者がこの自社株を所有している場合には、投資総額が不明となることが少なくありません。このような取得価額が判明しない株式等を所有している場合、取得価額をどのようにして把握するかが大きな問題となっているのです。
国税庁では [1] 所有者の日記帳や預金通帳などの手控えから取得価額を把握する、[2] 株券の裏書きや株式発行会社の株主名簿を手掛かりに取得価額を把握するなどの方法があるといっておりますが、納税申告に当たって税務署の担当者が認めるかどうか明確でなく、実務も混乱しております。株式等の譲渡益に対しては、昭和28年に証券市場の育成という観点から原則非課税とされ、平成元年に原則課税とされましたが、その際にも源泉分離課税が導入されましたので、納税者は申告に慣れていないのです。株価もバブル崩壊後の最安値を割り込んだ最悪の時期にスタートを迎えた新証券税制、あまりの悪評判で早くも手直しがされる予定です。
新証券税制の適用期間一覧表は下記のとおりとなります。
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